2014 Fiscal Year Research-status Report
戦後農村女性のサブシステンス活動にみる農本的思想の特質とその構造
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24510376
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大石 和男 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20335300)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 農村女性 / ネットワーク / サブシステンス / 農本主義 / アグラリアニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の農村女性による起業や社会貢献などのさまざまな活動は、しばしばエンパワーメントなどの用語と共に説明されてきた。だがその一方で、これらの事例では、<農>のもつ様々な機能と効用を再確認し、その重要性を訴える思想や実践(=農業本位の思想)との結びつきが広範囲にみられるにも関わらず、両者の結びつきには従来あまり目をむけられてこなかった。本研究ではこれまでの農村女性の研究を一歩押し進め、農業本位の思想にみられる歴史的動態や各種要素の発現形態が、農村女性をとりまく環境としてどのように作用してきたのかを明らかにし、その上で農村女性の活動がもつ今日的な特性とその構造を思想分析の観点から明らかにすることを目的とする。 そこで問題となるのが、農業本位の思想には、近現代を通史的に把握できる分析フレームが十分に整備されていない点である。そこで本年度は理論的作業として<自己決定権の確保>という分析視角を設定し、これらが農業本位の思想において歴史的にどのように発現してきたのかに関する概念構築的な考察を、研究の柱のひとつとしてきた。 この研究に際しては、アメリカのアグラリアニズム思想と日本の農本主義思想、およびフェミニズム研究者のM・ミースらが用いているサブシステンス概念に着目した。とりわけサブシステンス概念は、先進国・途上国を問わず、<農>的な領域から社会変革を志す人びとの思想と実践を分析するのに有効であり、農業本位の思想とも親和的であることが本研究を通じて徐々に明らかになりつつある。そしてこれらの視角を補助線に用いつつ、農業本位の思想を通史的に把握する方法について考察を行った上で、その知見を学術雑誌(『村落社会研究ジャーナル』)に投稿した。ただし論文はまだ掲載決定には至っておらず、査読者等のアドバイスを踏まえて、現在、投稿論文の書き直し作業を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
理論研究の面において、アグラリアニズム思想と農本主義思想の比較を行い、両者からサブシステンス領域を抽出すると共に、農業本位の思想の通史的な分析枠組みの構築を行い、これらの知見を学会誌(『村落社会研究ジャーナル』)に投稿し、その後の査読結果を受けて論文の方向性および中心概念の展開方向について見直しを行った上で再投稿を行ったものの、まだ修正を必要とする段階にあると判断されており、掲載決定には至っていない。その理由は、農本主義と戦後思想との関係性に関する分析、およびアグラリアニズムという視角の属性に関する分析、の双方に関する先行研究が少ないため、サブシステンスという要素がこれらの思想中に散見する意味を踏まえつつ思想の通史的把握を行うためには、まだまだ検討課題が多いとされたためである。 また農村女性に対するフィールドワークでは、高知県などでの調査を行ったものの、全体としては必要十分な調査を実施するには至らなかった。その大きな理由は親族の重篤な病状の発覚にあり、病変や介護に対応する必要性から、フィールドワークの中心的な期間と見定めていた夏季休暇中に対して調査日程を組むことがほぼ不可能となってしまい、そのような状況が長期に渡って継続したためである。なお以上の理由により研究期間を1年間延長する申請を行い、認められたこと、および次年度についてはこのような事情が解消されたことから、今後はフィールドワークに向けた時間が十分に確保できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の理論面に関しては、引き続き農本主義思想とアグラリアニズム思想、そしてサブシステンス概念の3つに着目しつつ、それらの通史的な把握手法の構築に向けて、テーマの絞り込みも考慮に入れつつ考察を進め、引き続き学会誌投稿論文の修正作業を進める。これとともに、農村女性の諸活動および思想の位置性について、それらがもつ特長および構造を踏まえながら、日本における農業本位の思想の中に関連付けていく作業を行う。 具体的には実態調査のさらなる充実とそこから得られたデータの分析および考察が中心となる。調査についてはこれまでに実施したインフォーマントに加え、新たに数名のインフォーマントに対する追加調査を行い、最終的に、農村女性ネットワークの中心人物であると同時にそれぞれの居住地でも独自の地域活動を展開する女性10数名に関してデータの収集を行う。 その際、インフォーマントの関与した諸活動について、地域振興活動や農産物の直売・加工活動、農村女性起業、農村女性ネットワーク活動、などへの関与について洗い出しを行うと同時に、彼女たちがこれまでに携わった社会活動や家庭内での活動における権限獲得のプロセスについて聞き取り調査を行ったうえで、農村女性のライフステージ上における決定権の入手(時期)が、彼女たちの社会活動等に対する意識醸成や活動参画にどのような影響を及ぼすのかについて考察を行い、これとあわせてサブシステンスや社会変革の領域と親和的である構造的な理由について解明を目指していくこととする。 なお研究の最終年度であることから、年度内に研究成果に関する学会報告と行うとともに、成果の一部を論文として盛りこむことを目指す。
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Causes of Carryover |
上記で述べたことの繰り返しになるが、親族の重篤な病状の発覚にあり、病変および介護に対応する必要性から、フィールドワークの中心的な期間と見定めていた夏季休暇中に対して調査日程を組むことがほぼ不可能となってしまい、そのような状況が長期に渡って継続したため、予定していた調査を完遂することができなかった。そのためデータが十分な量に達せず、年度内の研究の完結も困難であることが見こまれたため、研究期間の延長申請を行い、認められた。したがってフィールドワークの未達成部分に関する研究費(旅費)に相当する額がそのまま未使用となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
農村女性ネットワークの参加者個人に対する調査に遅れが生じていることがから、引き続き国内各地に居住する農村女性の個人属性に焦点を当てた実態調査を実施する予定であり、国内旅費(調査旅費および資料収集旅費)に予算の大半を割くものとする。 なお調査件数については、新たに5~6名のインフォーマントへの調査を予定しており、最終的には研究計画にある通り10数名のデータを集める予定としている。これと併せて農業本位の思想や農村女性活動に関した資料収集の旅費も見こんでおり、年度内には学会報告を行うための旅費も設定している。
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