2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24510378
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
青山 薫 神戸大学, その他の研究科, 教授 (70536581)
|
Keywords | セックスワーク / セックスワーカー / 性風俗産業 / 人権 / 参加行動調査 / 社会的排除 / 人身取引対策 / 国際比較 |
Research Abstract |
本研究は、日本の性産業で働く人びとの法的、社会的処遇および労働条件が、当事者の安全と人権にどのように影響しているかを明らかにすることを目的とする。本研究はとくに、人身取引禁止をめざす国内外の政策が性産業一般の取り締まり厳格化に結びついていることに注目し、社会的疎外を受ける人びとを真に支援するためには何が必要かを、他国の法政策も参考にしながら検討する。 本研究は、性労働者当事者との協働による参加行動調査を基礎にするという、方法論的特徴をもっている。つまり、研究を実施すること自体によって、社会的疎外を受ける当事者の存在・立場・知見の社会的な認知をうながし、そこから性労働の現場に還元できる結果を導き出すことをめざすのである。 平成25年度は、24年度に行った性労働の現場へのアウトリーチを発展させ、9月に、札幌の性風俗業界で働く人びとに対する集中的な聞き取り、および、小規模アンケート調査を行った。結果、10年前の類似調査にくらべ、サーヴィスを提供する女性のあいだに、収入の低下、目的の変化、勤続年数の増加、高年齢化、シングルマザーの増加という特徴がみられた。また、性労働が女性にとって貧困や過剰労働を防ぐいわば「セイフティネット」として機能していることを示唆するのに対し、男性にとっては他の仕事に失敗した後等の「やり直し」の機会を提供している可能性が、男性従業員への聞き取りで示された。 他国との比較研究については、11月にアジア太平洋国際AIDS会議に参加し、協力者とともに参加行動調査について発表し、人身取引対策と性産業取締りの関係について同様の関心をもつ研究者やNGOなどとの情報交換を行った。これをきっかけとして、1月には韓国の当事者団体 Giant Girls が来日し、本研究と情報交換を行った。また、2月22日には、AIDS会議の報告会を一般に公開して開催し議論と交流の場を提供した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、性産業で働く人びとがどのような法規制と社会的排除の危険に晒されているかに注目してきた。また、性産業に対するスティグマ、公的課題として取り扱われ難い不可視化、これらを当事者がどう内面化しているかが、総合的に当事者の人権と安全にどう影響しているかについて探究してきた。最終的には、性産業で働く人びとの知見が反映された彼女らの安全と人権を守るための現実的な対策を導くことをめざしている。 「研究実績の概要」に記したように、平成25年度は、前年度の成果にもとづいて性産業で働く人びとの直面している問題を明らかにすべく、彼女たち対する質的調査ならびに数量調査も進めることができた。数量調査は200人弱に対する小規模なもので、一つの経営体傘下の店舗に依頼したものであるため、統計的な有意性は低い。しかし、研究計画には無かったこの調査が、当事者協力者がアウトリーチで得た情報について業界雑誌に執筆する機会を得、そのための取材と並行してアクセスが許された場で可能になったことを考えると、当事者参加行動調査の大きな進展として評価できる。内容も、上述のとおり、経年評価が難しいこの分野において10年前との比較を一部可能にする点で貢献が大きい。また、札幌調査の過程では、昨今のシングルマザーの貧困を問題視するNHKの関心も呼び、協力も得、12月には結果の一部が番組で放送されるという成果も生んでいる。 アジア太平洋国際AIDS会議への参加は、韓国の当事者団体との交流を深めたが、この際、映画監督キョン・スーン氏も本調査に関心をもち、Giant Girls とともに来日して議論や交流の様子の一部を記録映像としている。 以上のように、25年度の成果は、とくに研究過程と結果の一部を社会に還元し、当事者の知見と現状を可視化するという点で、予定を越える進展を見た。計画外の他の社会的課題との具体的な連携が生まれたことも大きい。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、25年度の成果をさらに発展させる形で、アウトリーチで得たアクセスを頼って聞き取り調査等を重ねていく。その際は、いわゆる「接近困難層」であり、不足しがちな性労働に携わる外国人に対する調査の充実をめざす。 他国との比較については、まず、7月にメルボルンで開かれる国際AIDS会議に、協力者とともに参加し、本研究の成果を日本から発信する他、オーストラリア全土を対象とする性労働当事者団体である Scarlet Alliance とワークショップを共催する。さらに、当事者みずからが安全と権利を守るための社会的発言力をつけることを目的とした Governance Training に参加し、その後の調査研究および結果の公表に還元する。また、英国やドイツを中心とするヨーロッパとの情報交換が計画に比べて不足しているため、9月に訪英し、当事者団体を訪問するほか、資料収集を行う。この際には、昨年度末に欧州議会で採択された“Sexual Exploitation and Prostitution and its Impact on Gender Equality”に対する賛否両論を詳しく評価することを第一の目的とする。この報告書は、人身取引を禁止するには性産業全体に対する取り締まりを強化することが必要という議論に則って、売買春の客を犯罪化するいわゆる「ノルディックモデル」法規制を、EU加盟国全体に広めようという政策提言を含んでいる。本研究にとって重要な動向の一端である。 最終年度の成果発表については、引き続き、性労働当事者および一般社会人に開かれた形で、参加者のフィードバックを受けることも目的として行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予定し、依頼していた資料の翻訳が、年度内に終わらなかったため、次年度に繰り越すことにした。 (なお、予定していた「人件費・謝金」の支出がなかったのは、調査相手が本名や住所を明らかにして謝金を受け取ることが困難だったため、研究協力者団体を通じて「その他」にあたる請負業務に対する謝礼として支払いを行ったことによる。) 外国語資料の翻訳にあてる予定。
|
Research Products
(9 results)
-
-
-
-
-
-
[Book] Asian Women and Intimate Work2014
Author(s)
Ochiai, Emiko and Aoyama, Kaoru eds. (othrer authors: Nakatani, Ayami, Oshikawa, Fumiko, Suh, Ji Young, Wu, Yongmei, Zheng, Yang, Khuat, Thu Hong, Bui, Thu Huong, Le, Bach Duong, Belanger, Daniele, Tran, Giang Linh, Hao, Hongfang, Ueno, Kayoko and Lee, Hye-kyung)
Total Pages
318
Publisher
Brill
-
-
-