2012 Fiscal Year Research-status Report
出生率保持を可能にする条件と背景要因に関する日英比較研究
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24510392
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kochi National College of Technology |
Principal Investigator |
池谷 江理子 高知工業高等専門学校, 総合科学科, 教授 (30249867)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 社会政策・社会福祉 / 国際比較 / 地域間比較研究 / 経済・交通地理学 / 保育・子育て / 国際情報交換 / イギリス:日本 / ヨーロッパ |
Research Abstract |
24年度には英国と日本の人口・社会等関連文献・統計を収集・検討し、国際学会で発表の上、論文にまとめた。 英国は1930年代、合計特殊出生率を1.79へ低下させたが、第二次世界大戦後、1960年代にかけて合計特殊出生率を3.0程度へ上昇させた。1970年代以降、同率は低下傾向にあったが、近年は上向き2.0に接近している。このように英国は二度の大戦後、軽微な少子化を経験しつつも1.7から2.0程度の安定した合計特殊出生率を維持してきた。 日本は第二次世界大戦後、合計特殊出生率を低下させ、1970年代後半に2.0以下、85年以降には下降の一途を辿った。2011年には1.39を示したが依然として低水準である。 英国が安定した出生率を維持してきた背景として、第二次大戦迄の低出生率については地域保健制度による対応が指摘される。第二次大戦後の低出生率と回復に関しては、海外出身母の出生増加等から、社会福祉安全網、多面的保育制度の効果が、出産年齢の上昇等から均等政策、出産・育児休暇制度、ワーク・ライフ・バランス政策等の効果が指摘される。加えて教育への財政支援の大きさも評価される。 日本との差異をみると、英国では、少子化対策という限定された政策目標ではなく社会経済的弱者対策・男女平等(均等)政策・子ども対策という広範な弱者対策・均等政策が結果として出生率を支えている。また、制度は短期ではなく長期間継続されている。加えて、各制度は一部の人々ではなく国民各層に向け、特に社会経済的弱者に手厚く制度設計されている。こうした福祉政策は財政負担を伴うが、弱者等が社会に出ることにより納税者が増え、税収等に還元され結果として社会が潤うと認知されている。 英国の政策は日本の政策と共通項を持つが差異も大きい。福祉支出や低出生に関する議論の研究及び現地調査を通じ、教訓を一層明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の研究目的には、「日本の合計特殊出生率は1970年代以降低下し、経済社会へ与える負の影響が懸念されている。一方、イギリスは20世紀後以降大きく二度の少子化を経験したが、いずれも克服してきている。イギリスが少子化を克服し、出生率を維持・上昇させた条件・背景を明らかにし、日本の少子化対策立案に生かしていきたい」とある。 平成24年度研究実施計画の概要は「英国の少子化発生時の議論と対策・導入制度を調査研究し、日本の事例と比較検討する。方法は文献と統計、現地調査により行う。現地調査はイギリスと日本でおこなう。第1年度には以下の研究を行う。1、イギリスにおける出生率の低下・反転に関する論議・対応策の調査。主に1920年から30年代にかけての議論・対応策を調べ、出生率反転との関係を検討する。(1)関連文献・統計・資料の入手・分析。大英図書館等現地で資料収集・分析。(2)英国における関係部所実態調査。地域の看護師・助産師実態調査。地域保健システムの支援実態と課題の把握等。(3)英国の母子保健・地域保健と社会福祉制度の相互関係、第二次世界大戦戦後に確立した英国福祉国家の理念とその基盤の把握。2、日本における少子化対策・関連施策の調査。3、調査結果をまとめ、国際地理学会ジェンダー地理学委員会で発表し討論に付す。」である。 上記研究内容はほぼ実施したが、1の(2)に記した現地調査は、全体構想を明確にしてからの方がよいこと、学校・職場が夏季休暇となる8月に比べ、平常業務の始まる9月の方が機関や被調査者の協力を得やすいこと、からこれが可能な25年度に行うこととした。 全体構想に関し、26年度計画としていた教育への公的負担の把握が必要となり調査を行い、論文にまとめた。教育費調査・研究論文は計画以上の達成度であったが、現地調査の期間変更を考慮し区分を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度に関しては、1、英国の出生率を安定的に維持させた要因の研究、他国との比較を含む(継続)、2、英国における教育費に関する公的支援の歴史的背景・支える思想と推移、国民の対応、公的支援の実態把握、3、日本における出生率低下の背景(継続)、4、日本における教育費の公私負担の実態と背景思想、5、英国と日本における子どもを持つことの意味内容、子育て費用負担の実態、子どもの教育と費用に関する考え方と実態、に関する調査の実施、を行う。 具体的には、1、関連書籍・論文・統計の入手。2、研究室における文献資料の読破・分析・集約。3、現地イギリスにおける文献・資料収集。4、現地イギリスにおける保護者・看護師等関係者への実態調査(主に聞き取り調査)。5、日本における関係者への実態調査(聞き取り調査等)。6、学会における研究発表により、内容を討論に付す。2013京都国際地理学会ジェンダー地理学委員会において発表を行うこと決定済み(アブストラクト受領済み)。2013年8月8日京都国際会館、発表者:池谷江理子、題目:Background and Improvement Points of Low Birth Rate in Japan。7、研究発表後の討論を参考にし、この段階でまとめたものを論文として発表する。8、最終年度である26年度の計画を最終調整する。なお、26年度の内容としては、25年度までの研究の総まとめ、研究全体の文章・資料化を中心に考えている。ただし、研究の進展等により、補足調査・研究の必要が生じた場合には臨機応変に対応することとする。予算面でも対応できるよう配慮している。なお、研究の最終まとめの段階で国際・国内学会で発表し、研究者間の討論にかけ研究内容の厳しい吟味を行いより完成度の高い研究とするよう最大の努力を払うものとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、1年目に予定していた聞き取り及び文献調査を目的とした英国現地調査を2年目にまとめて行うこととした。そのため、調査旅費に充てる費用77万円余を2年目用にキープした。その理由は、以下の通りである。1、研究の枠組み・全体概要の把握を1年目に綿密に行い、個々の論点、裏付け作業は2年目以降のほうが研究の推進方向として望ましいと考えるに至ったためである。申請者の分析対象は1世紀余に及ぶため、全体把握を時間をかけ行う必要があった。個々の聞き取り調査は全体研究の中で位置づけが明確になってから行う方が効果的と考えられ、その点でも、論点がより明確となる2年目以降にすべきと考えられた。2、聞き取り調査の対象である英国の人々は7・8月にバカンスをとることが多い。この期間は学校や保育園の夏休みと重なる。このため8月に調査を行うと子どもの世話等で調査への協力が得にくい場合があるが、2013年には英国の新学期である9月に調査を行うことができ(勤務校が同年よりセメスター制へ移行するため)、調査環境が格段に向上すると予想された。3、2012年夏にロンドンでオリンピックが行われ、経済(旅費高騰)・移動・安全面等で懸念事項が多く、現地調査の円滑な遂行が危ぶまれた。 2013年度には研究室における文献・資料研究に加え、論点の深化と人々の行動・考え方の実態把握のため綿密な現地調査を行う。期間は9月を中心に計画している。勤務校はこの期間が夏季休業中であり好都合である。ロンドンの大英図書館、ロンドンスクールオブエコノミクス内女性図書館における文献調査とともに、看護師・保護者・女性等への聞き取り調査を行う。調査活動の費用のうち過半程度を前年度費用分で賄い、残りに関しては計上してある25年度旅費を充当する予定である。前年度経費分に余剰が出るときには調査に関連する書籍・物品等の購入に充てることとする。
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Research Products
(9 results)