2013 Fiscal Year Research-status Report
出生率保持を可能にする条件と背景要因に関する日英比較研究
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24510392
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Research Institution | Kochi National College of Technology |
Principal Investigator |
池谷 江理子 高知工業高等専門学校, 総合科学科, 教授 (30249867)
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Keywords | 少子化 / ジェンダー / 合計特殊出生率 / 国際研究者交流 / イギリス / 人口政策 / リプロダクティブ・ヘルス・ライツ / 晩産化 |
Research Abstract |
1、高専研究室で文献・資料を解読し、英国ロンドン・ボーンマス両市で資料収集・聴取調査を実施(8-9月)した。成果を国際地理学会京都大会で発表(8月)し、「第二次世界大戦後における合計特殊出生率の日英比較」として高知高専学術紀要に発表した。研究内容を以下に記す。 2、英国における出生率維持の背景を解明し日本の参考とするため、第二次世界大戦直後から1970年代迄と、近年を中心に合計特殊出生率の動向を比較した。 (1)大戦直後から1970年代:英国では戦後と60年代に合計特殊出生率(15-49歳女性の平均出生児数)が高まり、比較的高位の出生率が維持された。一方、日本では大戦直後、合計特殊出生率が上昇したが、1950年代に急低下し、60年代には2前後と低迷した。50年代の低下は合法化(1948年優生保護法)された中絶、60年代の低水準は避妊の普及・少産核家族をモデルとする制度や社会風潮が主因とされる。60年代は日本の高度経済成長期であるが、人口抑制的政策・風潮により、出生は人口維持限度に近い低水準に止まり、後の少子化の前段階とも判断される。なお、英国では、60年代に中絶の合法化がなされたが人口政策はとられていない。日英差の背景としてリプロダクティブ・ヘルス・ライツと国家、宗教等の関係が指摘される。 (2)近年:英国では合計特殊出生率が上昇しベビー・ブームとされるが、日本の出生率は低い。英国のベビー・ブームの背景には、海外出身女性の高出生率、英国生まれの女性の出生率上昇、が指摘される。日本における海外出身の女性の出生率は日本人に比べ低い。なお、年齢別出生率を見ると英国では20代が改善され、30・40代が増加している。一方、日本では20代は停滞、30代は増加するもいずれも英国に比べ低い。日英の差異の背景としては均等政策等労働施策、子育て支援策、安全網整備の差が大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1、当初の平成25年度研究計画では、「(1)英国の1970年代以降2000年前後までの出生率に関する議論と対応策を多面的に明らかにすること、また、2000年以降のベビー・ブームの原因に対する議論・要因の把握、出産年齢・母の出身国等に関する調査、(2)日本については1990年代以降の少子化の実態と議論、少子化対策、国内高出生力地域と低出生力地域の調査」を行い、「国内外の学会で発表・討論を行う」ことと予定されている。 2、英国に関しては、2000年以降のベビー・ブームに関する議論・要因の把握、母の出産年齢・母の出身国に関する調査等を行い、紀要に発表した。日本に関しても英国のベビー・ブームとの関係で比較検討を行った。 3、日本に関しては、第二次世界大戦中と戦後、1950年代から1970年代初頭にかけての合計特殊出生率の変動とその要因が1980年代以降現在に至る少子化進展の背景として重要であることが調査研究中に推測された。そこでこの期における合計特殊出生率推移と背景、当時の社会経済情勢を調査検討し、紀要に報告した。この調査を行うため、国内高出生力地域と低出生力地域に関する調査は25年度研究の重点対象から一旦外した。また、英国に関しては少子化に関連する議論が二十世紀初頭から第二次世界大戦にかけ行われている。この議論は第二次世界大戦中・戦後に大きな影響を与えている。そこで、二十世紀全体として少子化議論と対策を研究をすることが大切ではないかと考え、25年度には文献を収集し読破を開始した。 4、国際地理学会京都大会・高専機構女性研究者交流会で発表し、高専紀要に論文を発表したため、研究発表は達成と判断する。調査・研究は当初計画に比べやや広がり、内容面では当初の想定以上に研究が深まっている。ただ、確認すべき事項も残されているため、概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
1、26年度は最終年度であり、当初計画としては、補足調査及び日英比較により、英国から学ぶ事柄の検討、補足調査、学会における研究発表と討論、研究内容の取り纏めと発信が主な仕事として挙げられている。 2、これまでの調査結果に基づき、26年度には英国の二十世紀全般の少子化対策と日本が参考にすべき事柄の抽出、日本における二十世紀の産児調節と中絶政策及び実態に関し補足調査・研究を行う必要があると考える。理由は、英国における少子化への関心・議論は二十世紀初頭から第一次世界大戦後にかけ活発になされたこと、これらの議論とそれによりとられた政策を理解することは、英国が安定した出生率を維持してきた背景を知る上で重要であろうと考えること、また、第二次世界大戦後及び大戦前の出生・中絶・産児調節に関する政策や民間の産児調節運動は第二次世界大戦後の少子化傾向と関係があると想定されるからである。これらの研究を実行するため、文献購入と現地調査を実施する。英国現地調査は夏季休業期間を利用し、国内調査は後期休業期の利用を計画している。 3、研究成果に関しては、ポーランド国クラコウで8月中旬に開催予定の国際地理学会ジェンダー地理学委員会の政治地理学との合同セッションにおいて発表し討論に付すことが決定している(発表アブストラクト承認済み)。この学会発表のため、ポーランド出張を予定している。なお、国内の学会発表を行うことも計画している。 4、年度後半を中心に研究成果の取り纏めを行い、学会誌に成果発表を予定している。一般国民への周知・研究成果の還元に関しては学会誌へアクセス出来る方法を勤務大学の専任教員紹介頁に示すと共にデジタルデータとしても提供できるよう計画する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1、予算段階では研究成果の発表・討論を行う国際学会に関し、海外で開催される国際学会を想定していたが、申請者の研究発表において最も適切と考えられる国際地理学会ジェンダー地理学委員会が国内の京都市で開催されたため、参加旅費が国外開催に比べ低額となった。2、当初は年度内に2回目のフィールド調査を実施する予定であったが、調査の日程調整が難しく26年度に実施する方が良質な調査が可能となると判断された。3、追加研究分野として産児調節・家族計画関連資料の購入が必要となったが、年度末の所属変更・事務処理等の関係で、資料の一部については新年度購入がより研究遂行に適すると判断された。 1、8月中旬にポーランドで開催される国際地理学会ジェンダー地理学委員会研究発表者として申請者のアブストラクトがすでに承認されている。この国際地理学会参加費・旅費として次年度使用額のうち一定額を使用し、不足分には26年度助成金を用いる。 2、家族計画・産児調節等文献購入費として、次年度使用額の一部を使用し、不足する場合には26年度助成金を使用する。 3、国内における出生率の地域差に関する現地調査費用として、次年度使用額の一部を使用し、不足する場合には26年度助成金を充当する。
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Research Products
(8 results)