2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520004
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
戸島 貴代志 東北大学, 文学研究科, 教授 (90270256)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 恒之 東北大学, 文学研究科, 教授 (60419223)
佐倉 由泰 東北大学, 文学研究科, 教授 (70215680)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 機 / 時間 / 対話 / 垂直性 |
Research Abstract |
遅れをとらぬよう先読みする一種の計算によって、かえってそのつどの好機を先送りし、上滑りして空回りする弛緩した言葉のやりとりでは、言葉も事も宙に浮き、宙に浮く仕方で一切が台無しになる ― こうしたことを、従来の言語哲学では取り上げられることのほとんどなかった「機」すなわち「対話の時間性」という一種の実存的性格に着眼して解明することが本研究の第一の、そして最大の特色である。まずはこのことが、とくにその実存性という見地から、論文「続・活撥撥地」(『モラリア』19号)によって解明された。もともと対話の成立する高度に垂直的な成分は、そのあまりの超越性あるいは非日常性(場合によれば神秘性)のゆえに、通常の社会科学的対話論や言語哲学的コミュニケーション論ではそれとしては主題になりにくい。ましてや、この高度な垂直成分の発効条件としての「機」という時間的・実存的成分となると、その体系的な研究は従来の言語哲学や対話研究ではほとんど見られない。本論文は、かかる極度に超越的にして垂直的な次元が日常的・水平的次元にもその時間性の影を落としていることの哲学的概念形成を、文学的歴史研究と心理学的身体性研究との相互補完という仕方で図る本研究の諸成果を踏まえて書かれた。また、極端に、哲学的・形而上学的な存在と、その対極にある心理学的・科学的実証とを、日本語による時空認識の表現史的考究と協同させるという点で、一種の実存的対話研究ともいい得る本研究は、さらに、論文「己の而今」(『今を生きる』東北大学出版会)において、より一般的な視点から論究されることととなった。これにより、「機」の多様な性格がより広範な観点から研究できる視野が開かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
〈先行的枠組みの線上に位置しながらもこれには納まらないもの〉として、主観と客観の中間としての「気」という概念の特徴付けがなされることが予想され、さらに、この「気」が「機」と同義であることから、高度垂直性の次元の発動する瞬間のタイミングつまり「機」の問題が「気」の問題と連動する、ということが理解されると予想されたが、この点が解明できつつある。そしてこの「気」が中世日本の精神性と深い係わりを持つことが詳細にわかると、そこから、「機」つまり「気」を重視する対話の観念が日本独自の精神性を反映するものであることが理解されるとの予想から、新たな論拠が展開できた。 「機」の成分が、心理学での感情研究における実験的手法 ― 「集合法」や「個別配布・個別回収形式による質問紙調査」を用いた確率論的手法や統計学的手法 ― で用いられる「状況選定」や「シナリオ作成」にも寄与すること、このことが確認できた。さらに、心理学における感情や身体性の研究において「機」という隠れた有効性が抉り出されることによって、結果として、従来のコミュニケーション論では不可通約的とされた異種分野間対話(たとえば科学と禅)にも、身体情報を基にした新たなる通約性が見いだされ得るという、さらなる見通しが具体化した。
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Strategy for Future Research Activity |
「死者との対話」や「神との対話」についても、「機」に即したこれまでにない哲学的・文学的-心理学的・実証的な「対話現象学」という立脚点の獲得を目指す予定である。すぐれて実践的な場面(心理学実験も含む)にすでに織り込まれている見えない成分を、垂直性という空間性格と「機」という時間性格に基づいて取り出し、さらに対話を支える主体の「肉体」の担う働きを明確にするという方向で進みたい。また、本研究はいわゆる「コミュニケーション論」や「応用倫理学」に対してもこれまでにない実存的対話研究の地平を開き得るという意義を有すると期待できることから、この方面への積極的な取り組みを図りたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第一回目のセッションの成果を受けて、心理学ポストと哲学ポストとの総合を文学的視点に立って進め、そこからあらためて哲学的な概念形成ができないかを試みるために、ポストIにおける文献研究では言語学、人類学、精神病理学等へも射程を広げた仕方で研究費を使用する。ポストIIにおいては「顔」「錯視」「色彩」といった主題への拡張を試み、ポストIIIにおいては対象のテクストを拡張する方向で、それぞれ文献と心理学的調査を重視した研究費の使用を考えている。具体的には、ポストIでは、文献研究と哲学的討議の拡張として、1ソシュール:言語学的視点から(戸島)、2フーコー:人類学、精神医学的視点から(戸島)、3道元:禅思想(曹洞禅)の視点から(戸島)、それぞれ研究を試みる。またポストIIにおいては、主題の拡張として、1「化粧」における身体性の変容(阿部)、2「場の空気」に特化した「機」の役割(阿部、戸島)、3「化粧」「顔」「色彩」「錯視」についての「健康サイン」における効果(阿部)、こうした点に関して研究を進める。
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