2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520039
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
多田 伊織(永瀬伊織) 国際日本文化研究センター, 研究部, 客員准教授 (30310783)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 国際研究者交流 / 韓国 / 国際情報交換 / 台湾 |
Research Abstract |
1.散逸した唐末までの仏教医学文献の輯佚と復元と解析 24年度は、『傷寒論』『千金方』を中心に、精査を行い、文献学的に本文校訂を行い、唐代までの医書輯佚の基礎資料を作成した。特に『千金方(宋版)』は、現行の影印版で読みがたい部分について、国立歴史民俗博物館所蔵の興譲館本(宋版)の調査を現地で行い、宋版の問題点を洗い出し、合わせて同館所蔵興譲館本『史記』で医学の関連する部分について、室町時代の学僧・月舟寿桂幻雲(1460~1533)による書き入れを精査した。 2.海外流出した幕府の医学館関係者旧蔵の医書を中心とする調査(海外・国内調査) 24年度は、当初北京での調査を予定していたが、調査予定の国家図書館が改装中のため、調査地点を25年度の調査予定地である台湾に変更、故宮博物院・台湾大学・中央研究院で調査を行った。国内調査については、京都大学・杏雨書屋・金沢文庫等で小島寶素関連のものを中心に稿本・版本の調査を行い、幕末から明治初期にかけての医書の継承について、新たな知見を得た。 3.海外の研究者との意見交流と海外への情報発信 6月には韓国での国際シンポジウムで発表、2013年3月の北米のAAS年次大会は例年より発表数を絞ったため選に漏れ、代替に2012年12月に慶應大学で開催されたASHM ( The Sixth Conference for the Asian Society for the History of Medicine )で発表を行い、海外の研究者と意見を交換、学術交流を図った。国内で開かれた国際シンポジウムでは、国際日本文化研究センターで11月に開催された国際研究集会「東アジアにおける知的交流―キイ・コンセプトの再検討」で発表を行い、海外の研究者と意見を交換し、学術交流を図った。台湾では、中央研究院歴史語言研究所の黄進興所長と林富士副所長を訪問、学術交流を図った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 散逸した唐代までの仏教医学文献の輯佚と復元と解析 24年度は、特に宋版『千金方』の精査によって、唐代以前の医書の文献学的手法による再構成が進んだ。また『傷寒論』の対校によって、文献学的な検討に耐えうる基礎資料を作成した。 2. 海外流出した幕府の医学館関係者旧蔵の医書を中心とする調査(海外・国内調査) 24年度は、文献調査が概ね順調に進み、特に台湾大学医学部図書館での医書調査はこれまでまとまって行われておらず、現在の状況が明るみになった成果は大きい。同大学総合図書館での調査も、これまで漏れていた版本類をいくつも実見することが出来た。中でも、所在は確認されていたが、現状が不明であった喜多村直寛による朝鮮医書の翻刻、活字版『医方類聚』を目睹できた。台湾大学の医書、中でも版本については、これまでは目録が整備されていなかった関係で集中した調査はなかった。故宮博物院の調査では、室町期の写本等、写本や書き入れのある書籍を中心に行い、小島寶素堂のコレクション形成の経過の一端が把握できた。 3. 海外の研究者との意見交流および海外への情報発信 24年度は、台湾現地調査および韓国での学術シンポジウム、国内開催の第113回日本医史学会やASHM、国際日本文化研究センター国際研究集会「東アジアにおける知的交流―キイ・コンセプトの再検討」等の機会に、韓国・台湾・中国・アメリカ・カナダ・韓国・ベトナム等の研究者と意見を交換し、学術交流を図った。特に、森鴎外の作品が関係しているため、欧米や東アジアの研究者が、幕府の医学館関係者旧蔵の医書の海外流出に興味を持った。これまでの関連研究をまとめ、2012年3月に京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センターから発行した東方學資料叢刊第20冊『小島寶素堂關連資料集』(武田時昌教授と共著)を海外の研究者や調査協力機関に贈呈、今後の研究への協力を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初に掲げた3項目、1. 散逸した唐代までの仏教医学文献の輯佚と復元と解析、2.海外流出した幕府の医学館関係者旧蔵の医書を中心とする調査(海外・国内調査)、3. 海外の研究者との意見交流と海外への情報発信を軸に、随時4.成果発表を行う。基本的に1と2に重点を置き、3と4に反映させる。 24年度は、当初の予定以上に内外の学会および韓国での学術シンポジウム、国際日本文化研究センターでの発表(国際研究集会、シンポジウムおよび研究班)等の研究発表の機会に恵まれた。そのため25年度は、予定していた口頭発表の回数を減らし、24年度の口頭発表を元に論文発表を行うこととする。24年度の発表の内、いくつはか25年度中に公刊される予定であり、現在準備をしている。26年度に関しては、24-25年度の研究を踏まえた口頭発表・論文発表を行う。AASでの科学史パネルについては、選考に漏れると発表できないため、更にパネルの内容を練り、不首尾に終わった場合は、次善の策として、他の国際学会もしくはシンポジウム等で発表を行うよう調整する。 学術調査については、24年度の実績を踏まえ、国内外で更に調査を行う。24年度は、中国では北京での調査を予定しており、最も重要な調査対象機関の国家図書館が改装中で台湾に調査地を変更したが、25年度以降は、中国の国家図書館の資料公開の度合いを見極め、現地調査が難しいようであれば重点を台湾に移す。台湾での調査機関は、故宮博物院・中央研究院・国家図書館(台北)・台湾大学等を予定している。国内調査に関しては、国立歴史民俗博物館所蔵の国宝を中心とする資料の精査を更に継続すると同時に、京都大学・杏雨書屋・金沢文庫・国会図書館等で調査を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度の経費の中心となるのは、調査および研究発表のための旅費、資料の複写(マイクロフィルム等を含む)のための経費、資料の購入費および論文発表に関わる経費である。 海外調査については、中国国家図書館を中心とした調査を予定しているが、資料利用で支障があれば、調査の重点を台湾に移す。中国の調査は、先方の都合に左右されることが多いので、9月を実施するかどうかの判断の目途とする。台湾では、台北を中心に、故宮博物院・中央研究院・国家図書館・台湾大学等で調査を行う。台湾の医書資料に関しては、所蔵や実態が明らかでない部分があるので、現地の研究者と連絡を取り、柔軟に調査を行う。国内調査に関しては、随時行う。調査先は京都大学・杏雨書屋・国立歴史民俗博物館・金沢文庫・国会図書館等である。調査に関しては、国内外とも、協力者がいる場合は、謝礼を支払う。海外での研究発表は、2014年3月にフィラデルフィアでのAASの発表を予定しているが、選に漏れた場合は、他の海外学会等の発表機会に振り替える。国内での発表は、2013年5月日本医史学会と11月の日本道教学会を予定している。 機材については、24年度に購入したパソコンのシステムを適宜カスタマイズ・メンテナンスして使用する。図書については、必要な文献を随時購入する。資料複写については、必要な資料を随時複写し入手する。 25年度は、24年度の成果に基づき論文発表を増やすため、応募・校正・抜刷・論文送付に関わる費用を計上する。
|