2012 Fiscal Year Research-status Report
来華イエズス会士がもたらしたもの-『天学初函』に見る異文化概念の理解と齟齬-
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24520047
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kitakyushu National College of Technology |
Principal Investigator |
安部 力 北九州工業高等専門学校, 総合科学科, 准教授 (60435477)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イエズス会 / 天学初函 / キリスト教 |
Research Abstract |
H24年度は採択課題にもある『天学初函』について調査・研究を行った。その成果が「『天学初函』における『職方外紀』の位置が示すこと」(『哲学資源としての中国思想 -吉田公平教授退休記念論集-』吉田公平教授退休記念論集刊行会編著、研文出版、2013年3月、254~280頁所収)である。これは、計画段階から措定を試みていた「東アジア地域に対する俯瞰的視点の提示」に先鞭をつける内容とすることが出来たと考えている。少なくとも、中国でのイエズス会士の活動のみを見ていたのでは不十分な点を、日本におけるイエズス会士の活動に関する調査を踏まえ、またその研究成果を利用する事により、中国でのイエズス会士が、先行して布教活動を行った日本で援用していた「ヨーロッパにおける神学であるデザイン論証」を戦略的に用いていたであろうことを明示した。 また、当該年度では中国での現地調査を予定していたが、政治的問題により日本と中国との関係が悪化し、本課題に関する「宗教意識」の調査は非常な困難が予測された事もあり、調査予定地を台湾に変更した。台湾では台北市及び新北市の天主堂や信者への調査が行え、その成果は25年度の調査と併せて報告する予定である。 この他、近隣の大学で行われている研究会(宋明思想研討会『南詢録』読書会や『明儒学案』読書会)には継続的に参加し、当該課題に関する「明末清初」の思想界の状況把握に努めた。前者の読書会の成果は「鄧豁渠『南詢録』訳注(五)」(『活水日文』現代日本文化学会編、第55号、1~32頁、2012年)として発表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度の現地調査予定地は、当初の中国から台湾へと変更を余儀なくされたが、それは調査年度の変更で対応出来るものと考えている。中国での現地調査は政治的状況を見据えながら慎重に行う予定である(調査目的が「宗教」に関わる非常に繊細な問題であるため)。その代替としておこなった台湾での現地調査は台北市を網羅的に調査することが出来た。 また、本課題の大きな目的である『天学初函』の理解については、従来の研究では言及されなかった「東アジア地域を俯瞰的に見る視点」を踏まえた結果、イエズス会士が援用していた「デザイン論証」という神学を、当時の中国での受容者側は、必ずしも精確には理解していなかった可能性がある事を明らかにした。これは今後の研究遂行に於いて基本的視座となる視点を措定できたと考える。 また、今回のカトリック・キリスト教の法王交代に際するバチカン法王庁及び中国共産党政府との対応は、本課題がその射程に含む課題と呼応しており、今後の趨勢が注視される。この点については歴史上発生した「典礼問題」に関する教訓を「現代的課題」として捉えることの可能性を示唆していると考えている。 如上の事から、空間的・時間的視点からの取り組みに対して、大きな見通しを得ることが出来た1年であり、現在の進捗状況はほぼ順調であると考えている。ただし、中国と日本の政治的状況次第では、中国での現地調査に関する重大な阻害となる点は今後の課題であり、研究の遂行に於いて阻害原因になることを憂慮している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は所属組織の派遣研究者として、二ヶ月間の台湾での研修を予定している。そのため、中国での現地調査を行う予定であった時期を台湾に振り向け、中国の状況を見ながら、適切な時期に中国での現地調査を行う予定である。また、二ヶ月間の台湾での調査と昨年度の現地調査の成果を併せて今後、報告する予定である。 史料研究では『天学初函』に関する調査を更に深めるため、日本におけるイエズス会士の活動を専門としている研究者にもアドバイスを請うことにしている。これによって、これまでは見えなかった、『天学初函』の全体像が明らかになると期待している。と同時に、中国での出版当時の状況やその過程を明らかにするために、イエズス会士の書簡なども精査する予定である。 この他、読書会や各種学会には精力的に参加し、またその成果を発表しながら、研究成果の社会的還元を図りたい。その点で「現代中国における宗教問題」と「明末清初期におけるイエズス会士の活動及び典礼問題」とを関連させられるか否かを意識しながら、バチカン法王庁との関係を注視していくこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度は残額が3263円となっているが、これはH25年度に台湾と中国での現地調査にかかる費用を少しでも振り向けられれば、という考えの下、「繰り越し」制度を利用させて頂いたためである。幸い、H25年度は所属組織から台湾への派遣費用が支給されるため、この算段は不要となった。しかし今年度に有意義な活用が可能になったと考えている。 H25年度は台湾、中国での現地調査へ25万円程度。またその調査にかかる機器(ノートパソコンもしくはデジタルビデオカメラ)の購入及び史料購入のために25万円程度を予定している。
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Research Products
(2 results)