2013 Fiscal Year Research-status Report
来華イエズス会士がもたらしたもの-『天学初函』に見る異文化概念の理解と齟齬-
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24520047
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Research Institution | Kitakyushu National College of Technology |
Principal Investigator |
安部 力 北九州工業高等専門学校, 総合科学科, 准教授 (60435477)
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Keywords | 天学初函 / イエズス会士 / 職方外紀 / 国際情報交換(台湾) |
Research Abstract |
本研究課題にかかる平成25年度の研究実績は以下の通りである。まず、明末当時の思想状況を明確にするためにトウ豁渠の著書である『南詢録』の訳注作業を継続して行い、成果を発表した。これは、本課題の主要テーマである『天主実義』出版に関わったイエズス会士及び中国人士大夫が活動した明末期に於いて、当時の思想状況を活写する文献として好適であるためである。また、天主教に好意的であった人物の中には、仏教に関心を寄せていた者も多く、当時の仏教界に対する様々な視点をトウ豁渠が提示している事からも本課題の遂行に有益な知見を得る事が出来た。 また、本課題の遂行に於いて念頭に置かれている「東アジア地域への俯瞰的視点の提示」を模索している過程で、朝鮮半島におけるカトリック・キリスト教(天主教)の思想研究を行った。その調査に付随する成果として、朝鮮半島で天主教に関わった人物を取り上げ、『岩波世界人名辞典』の「愼後タン、権哲身、権日身」を担当・執筆、出版した。これは、当時の朝鮮半島における天主教の状況を考えると同時に、現代韓国の天主教教会がこれらの人物を初期天主教教会の創設者と仰いでいる事から、現代の韓国天主教会の実情を考える事にもつながり、それは「台湾・中国・韓国・日本」という地域を相互俯瞰的に比較できる視点の獲得にも繋がっている。 現代東アジア地域におけるカトリック・キリスト教の現地調査は、日本と中国・韓国との政治的関係の悪化、また中国での教会への取り締まり強化など「宗教界」を取り巻く環境が厳しくなったため、今年度も台湾での調査活動を重点化した。結果として、台北市、新北市の天主教教会は網羅的な悉皆調査を行う事が出来、整理のうえ、発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究活動そのものは、昨年度、所属機関の助成を受けて、二ヶ月間の台湾での訪問研究を行う事が出来た。その間、台北市、新北市の天主教堂を網羅的に調査し、聞き取り調査など、現代の台湾におけるカトリック・キリスト教の状況をつぶさに知る事が出来、有意義であった。この調査で得た知見は現在分析・整理中である。また台湾滞在時に、台湾国家図書館内の「利瑪竇太平洋研究室」にあるマテオ・リッチを始めとする明末清初の来華イエズス会士に関する充実した史料を調査する事ができた。この調査で得た知見も、「現代と明末期」を重ね比較しながら分析をすすめている。 その一方で、対日感情の悪化などから、大陸中国での「宗教意識」調査は、先方の協力研究者から「宗教に関する調査は繊細な問題であるので、もう少し時期を見た方がよい」との助言もあり、昨年度は行えなかった。しかし、台湾での現地調査及び史料調査は、計画以上の進展があったため、全体としては、計画上おおむね順調であると判断した。 発表及び報告の準備も現在進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は台湾が中心であったため、今年度は大陸中国での現地調査及び史料調査を行う予定である。仮に「聞き取り調査」が不可能であっても、『天学初函』が出版された浙江省(杭州)での史料調査や、編集者である李之藻やその協力者であるイエズス会宣教師などの活動に関する現地調査、またイエズス会士の活動を支援した徐光啓に関しても上海市で調査可能だと考えている。今年度は、大陸中国での調査も可能になるような方法を考慮し、研究計画をバランス良くすすめる予定である。 中国での研究協力者の助言を仰ぎながら、上記の調査を行う予定ではあるが、政府の方針によっては宗教界(特にキリスト教会)への締め付けが更に厳格化する可能性もある。この場合は昨年度の台湾調査で得た台湾天主教会とのつながりも活用するため、台湾教会でのミサへの参加など「実態」をより把握し、研究を深化させたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は残額が1191円となっているが、次年度使用額が生じた原因は、物品費としてより有効な活用を目指したため、繰り越しを行う事とした。書籍の購入も考えたが、次年度に予定している専門書籍購入に、少しでも充てることにしたためである。 繰り越した1191円は主に専門書籍の購入に充てる予定である。 また、今年度の使用計画としては、台湾での現地調査、及び中国でも現地調査を行う予定であるため、40万円ほどが旅費に使用予定であり、10万円ほどを物品購入に充てる予定である。繰り越し制度を活用させて頂いたのは、物品使用予定費が昨年度より減少するという理由もある。
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