2014 Fiscal Year Research-status Report
来華イエズス会士がもたらしたもの-『天学初函』に見る異文化概念の理解と齟齬-
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24520047
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Research Institution | Kitakyushu National College of Technology |
Principal Investigator |
安部 力 北九州工業高等専門学校, 一般科目(文系), 准教授 (60435477)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 天学初函 / イエズス会士 / 台湾 / 天主教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題にかかる平成二十六年度の研究実績の概要は以下の通りである。まず、これまで継続的に行ってきた、台湾での現地調査に関する報告を作成し、発表した。(「台湾におけるカトリック・キリスト教信者の宗教意識に関する一考察(四)―図像を中心に(Ⅰ)―」(『北九州工業高等専門学校 研究報告』第48号、2015年1月)これは、明末に来華したイエズス会士の布教方針が「現地文化との適応」にあったことを念頭に、その「現代的展開」の状況を、東北アジア地域(特に中国と台湾)において探るために行った現地調査の報告である。現代台湾では、キリスト教教会(特にカトリック)の様々な面で「現地文化との適応(本地化・習合)」が見られる。当該報告では、これまでに行った台北市、新北市、基隆市地域の天主堂への網羅的調査から、特に「図・像」を中心テーマとして取り上げたものである。 また、イエズス会士が来華した一六世紀の思想界の状況を把握するために継続的に参加している「宋明思想研討会」の活動成果として、「鄧豁渠『南詢録』訳注(九)」『活水日文』56号、活水女子大学、2014年12月)を発表した。これは、本課題の主要テーマである『天学初函』出版に関わったイエズス会士及び中国人士大夫が活動した明末期において、当時の思想状況を活写する文献として好適と考えるからである。また、鄧豁渠に関しては、イエズス会士の中でも指導的役割を果たしたマテオ・リッチ(利瑪竇)と交流を持っていた李卓吾が、その思想を評価するなど、明末の思想界に生きた「宗教者」的側面をうかがい知ることにも役立っている。 今年度は、中国における教会の状況、また『天学初函』の出版地でもある浙江省を訪問調査する予定であったが、教会に対する中国政府の取り締まりが強まったこともあり、研究協力者である中国人研究者のアドバイスにより、台湾での訪問調査の継続を主な活動とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究活動そのものについては、当初中国大陸(浙江省杭州市)での訪問調査(宗教意識)を予定していたが、一昨年度来、宗教活動に対する中国政府の取り締まり強化から、研究協力者のアドバイスもあり、中国での訪問調査を断念した。そのため、「当初計画の遂行」という点では、やや遅れが見られる。 ただし、訪問調査先を台湾に変更してからは、継続して台北市、新北市、基隆市の教会を網羅的に調査し、各所での信者や教会関係者に対する宗教意識の聞き取りは当初計画より大幅な進展を見せている。 台湾では、各所の訪問調査以外にも台湾国家図書館(太平洋利瑪竇研究室)での史料調査を行うことが出来た。これらによって、「明末に来華したイエズス会士の活動(方針としての「現地適応主義」)と「現代東アジアにおけるカトリック・キリスト教の状況」を関連づけた視点の有効性などを確認することが出来ている。台湾での現地調査については、今後も発表を行っていくが、これは大陸中国との比較を行う上では有効な考察材料になる。また、明末当時との比較にも寄与できる視点であろうと考えている。 以上の結果から、全体としてはおおむね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の目標は中国大陸(特に浙江省杭州市)での訪問調査及び史料調査である。ただし、宗教界(特にカトリック教会)への締め付け教化が引き続き予想されることから、目的を「史料調査」に限る可能性もある。また、中国での研究活動が難しいと予想される場合は、昨年度同様、台湾での訪問調査及び資料調査を優先させ、本課題に資する考察材料の収集に努めることとする。また、明末思想界の状況把握のために「宋明思想研討会」の活動には継続して参加し、『天学初函』出版当時の状況を浮き彫りにしていく。 本年度は最終年度のため、全体のまとめを考えているが、中国大陸での調査そのものの可不可、実際に調査可能な時期によっては、研究活動全体のまとめが困難になる可能性も考えられるが、台湾での調査結果と合わせて、継続した活動が行えるような整理を行う予定である。
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Causes of Carryover |
使用残額が「2288円」あるが、書籍購入などにおいて、より有効な使用を企図したため、次年度へ繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
専門書(叢書)の購入などに、今年度分と合算して使用する予定である。また、今年度の助成金は、物品費は主に、研究遂行に必要な明末思想に関連する史料および東アジアにおけるキリスト教(イエズス会士)の活動を把握できる史料の購入に充てる。旅費は、中国もしくは台湾での訪問調査、日本国内での史料調査に充てる予定である。
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