2014 Fiscal Year Research-status Report
ヴェーダ祭式文献における「祭主の章」:宗教,社会,生活の変遷の解明の為に
Project/Area Number |
24520048
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西村 直子 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (90372284)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 古代インド / ヴェーダ祭式 / ヤジュルヴェーダ / マントラ / ブラーフマナ / 祭主 / 新月祭 / 満月祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題はヴェーダ祭式の主催者たる「祭主」に関する議論を精査し,ヴェーダ文献及び祭式の整備過程の解明に資することを目的とする。本年度は黒ヤジュルヴェーダ各学派の「祭主の章」冒頭のマントラを精査し,マントラ章(紀元前1000年頃)-ブラーフマナ(紀元前800年頃)- 祭式綱要書(シュラウタスートラ,紀元前6世紀頃以降)の3段階に亘ってマントラの位置づけの変遷を跡づけた。また,各段階における学派相互の関係についても影響関係の方向性について可能性を指摘した。
ヴェーダ祭式は祭主と執行者たる祭官とによって挙行される。一般に,祭官と祭主とはそれぞれ祭官階級と王族階級に属すると考えられがちである。確かに紀元前7世紀頃以降の諸文献(特に紀元前6世紀頃のウパニシャッド以降)には,祭官と王族との議論が頻出し,王族階級が祭主としての地位を確立しつつあった様子が窺われる。しかし,先行する黒ヤジュルヴェーダ学派のブラーフマナは,あくまでも祭官階級に属する祭主をスタンダードとして議論を展開している。また,マイトラーヤニーヤとカタの両派は毎日晩と朝に行うアグニホートラ祭の挙行を王族には禁じており,王族による祭式への参与に消極的な段階のあったことを示唆している。
このような王族に対する制限は,ヴァージャサネーイン派によって事実上撤廃されたものと考えられる。その一端はヤージュニャヴァルキャとジャナカ王との対話にも現れ,更に王族達が独自の神学議論を発展させていたことも明示されている。それを可能にしたのは,インド・アーリヤ諸部族の東漸と定住化とに伴う王権の伸長であろう。祭式の整備と神学議論が発展してゆく背後には生活と社会構造との変化が深く関与していると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「祭主の章」と「新月祭・満月祭」章とに関して,マントラ部分のテキストデータをほぼ完成させた。これと同時並行でブラーフマナにおける引用と解釈議論の精査,学派間の対応関係の整理等を行っている。この過程で,ブラーフマナに引用されていないマントラについての検討がやや遅れ気味である。このようなマントラは散発的に現れる場合と,比較的まとまった量で編集されている場合とが有り,マントラの順序が異なる場合には実際の祭式手順の異同を反映している可能性も有り,個々の場合に応じて慎重な判断が要求される。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続きマントラの対応とブラーフマナにおける引用,解釈議論の精査等を行う。祭主のマントラは,祭式の基本形である新月祭・満月祭において唱えることを前提として編集されている側面もある。新月祭・満月祭は通常2日間に亘って行われ,1日目の晩が儀礼上重要な役割を果たすと理解されている。その場面で唱えるマントラ,並びにそれらの解釈,神学的議論を優先的に精査して行く。達成度を考慮し,考察の範囲(章の一部について全学派の伝承を対照させるなど)を限定することも視野に入れて翻訳及び注解を行って行く。
|
Causes of Carryover |
3月に予定されていた研究会の日程が定まらず,旅費を確保するために物品等の購入を迅速に行うことが困難であったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
パーソナルコンピュータ周辺機器の物品購入を計画している。
|