2014 Fiscal Year Research-status Report
瑜伽行派における、空・無我の思想と利他行・衆生救済の関係に関する考察
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24520050
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 晃一 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (70345239)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 菩薩地 / 解深密経 / vastu / 空 / 無我 / 利他行 / 波羅蜜 / 十地 |
Outline of Annual Research Achievements |
インド仏教瑜伽行派の最初期の文献『菩薩地』の「自利利他品」と「力種姓品」の文献学的分析に基づき、内容を考察している。 過去3年間の研究においては、空・無我思想と利他行の実践の関係を考察することに主眼をおいていた。言い換えれば、インド唯識思想の哲学的理念と倫理的実践の関係の考察とも言える。しかし、昨年度、関連する文献である『解深密経』を調査したところ、この学派の哲学思想と倫理思想の関係を理解するためには、修行道の理解が不可欠であることが明らかになりつつある。これについては日本印度学仏教学会第65回学術大会(武蔵野大学、2104年8月31日)で、「『菩薩地』と『解深密経』のvastu観の比較」と題して、研究成果の一部を発表した。このほか、この二つの文献の六波羅蜜と十地に関する記述には、やや定型的ではあるが、利他行を念頭に置いた教説がみられることも明らかになってきた。 これらは従来、漠然と前提とされてきたものだが、全体を包括的に捉えて分析し、その関係を論証するということはなされていない。本研究では、哲学、倫理、修行という側面を有機的に関連付けて理解する点に意義を見い出すことができる。 『解深密経』は『菩薩地』に比べると、瑜伽行派の唯識思想と倫理的実践、修行としての実践を体系的に関連付けようとしている傾向がみられる。本年度は『菩薩地』と『解深密経』の思想史的関係をより緻密に分析すること、『解深密経』の全体的な思想内容を整理すること、それをもとに、最初期の思想を伝える文献である『菩薩地』では、哲学的思想と倫理的実践がどのように関連付けられているのか、考察する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24・25年度は、『菩薩地』「自利利他品」と「力種姓品」の校訂・翻訳を行い、平成26年度は,その成果に基づきながら、『解深密経』まで考察範囲を広げ、哲学思想、倫理思想の関係を考察した。当初の計画では、いわゆる五明処と称される学問・技術の修得に関して、『菩薩地』が作成された時期の状況を勘案しながら、無我説・衆生救済に関する先行研究の収集・整理を行うことを予定しており、おおむねその計画に沿って、研究を進めているといえる. 特に『解深密経』の分析の際に、国内外の資料を広く収集しながら、初期瑜伽行派の思想体系について、従来の定説とは異なる視点での研究を進めている。その意味では、思想史研究に十分に寄与しうる研究を順調に進めていると考えられる。 現時点では、明確な結論を提示するには至っていないが、国内外の貴重な資料も含め、研究資料の蓄積状況もおおむね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、特に『解深密経』の内容読解から得られた資料を加味して、『菩薩地』「自利利他品」の内容を分析し、空・無我思想と利他行の実践の関係を考察する。そのために、大乗仏教で重視された実践である六波羅蜜と十地を視野に入れる必要がある。そのために『菩薩地』の他の章である「波羅蜜品」「住品」なども扱う必要があるが、これらについては必要に応じて校訂作業を行いながら、内容分析を重視して、本研究成果に反映させる予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度の研究を計画通り遂行し、結果として69円の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の物品費として使用する予定である。
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