2015 Fiscal Year Research-status Report
瑜伽行派における、空・無我の思想と利他行・衆生救済の関係に関する考察
Project/Area Number |
24520050
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 晃一 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (70345239)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 菩薩地 / 菩薩蔵 / 大乗 / 瑜伽行派 / 唯識 / 布施 |
Outline of Annual Research Achievements |
四世紀頃に成立した瑜伽行派は、無我や空という観念に解釈を加え、「すべては認識の表象に過ぎない」とする唯識思想を完成させるが、現代の視点から見ると独我論の謗りを免れない。すると大乗仏教が目指す他者の救済は意味を失うようにも思われる。こうした問題意識のもと、無我という視点と救済の実践の関係を捉えなおすのが、本研究の目的である。 27年度は、瑜伽行派が大乗という立場から仏教を包括的に捉えようとしていたことに着目し、無我の思想と衆生救済の実践の関係を分析しようと試みた。特に布施行に着目したとき、布施される物、施しを受ける人、そして施し手の関係が必要になる。施しを受ける人の存在まで「認識の所産」と見なしてしまうなら、瑜伽行派の唯識思想はあまりにも空虚な思想に見える。そのため、これまで瑜伽行派の哲学理論と実践倫理は完全に切り離して研究されてきた観がある。しかし、瑜伽行派の最初期の文献である『菩薩地』は大乗という視点によって仏教思想全体を包括しようとしていたことは明らかであり、この点から考察を始めることで、哲学理論と実践倫理の関係を説明しうる。 上記の点を明らかにするために、まず、『菩薩地』における大乗経典の位置づけを考察した。『菩薩地』は仏教の包括という視点を説明する際に、伝統的な仏説の分類法である十二分教や三蔵などとは異なる、独自の聖典観を示し、それに基づいて、大乗の意義をまとめている。仏教の包括という『菩薩地』の理念を説明するためには、まずこの『菩薩地』の聖典観が明らかにされなければならない。そして、これが解明されることにより、大乗経典に説かれる哲学理論と実践倫理の相関関係の分析も可能になる。以上の点を「『菩薩地』における菩薩蔵の位置づけ」と題して、『インド哲学仏教学研究』に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
27年5月に父親が他界し、その影響で研究内容を27年度内に論文をまとめるに至らなかった部分がある。 ただし、研究データの蓄積は予定通りに進んでいるので、28年度にそれらを公開する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度にすでに論文作成に必要な資料の収集と整理は進んでいるので、それに基づいて論文を執筆する。 また、28年度の前半に、関連する分野の専門家との意見交換を行う予定である。
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Causes of Carryover |
27年5月に父親が他界し、当初予定していた英文論文の執筆が年度内に終了しなかったため、校閲費などとして予定していた分を繰り越さざるを得なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
英文論文の校閲費として使用する。
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[Presentation] 煩悩の根源をめぐって2015
Author(s)
榎本文雄、斎藤明、高橋晃一、一色大悟、石田尚敬
Organizer
日本印度学仏教学会第66回学術大会
Place of Presentation
高野山大学(和歌山県・伊都郡)
Year and Date
2015-09-20