2012 Fiscal Year Research-status Report
ラトナキールティの宗教哲学研究―ブッダと主宰神の宗教的権威の証明に関する比較考察
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24520051
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
護山 真也 信州大学, 人文学部, 准教授 (60467199)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ラトナキールティ / 主宰神論 / ラトナーカラシャーンティ / 形象虚偽論 / 因果論 / 未来原因説 / アヴィッダカルナ |
Research Abstract |
1) ラトナキールティの『主宰神証明の論駁』に関するテキスト校訂・訳注作業を進め、全体の半分を完成した。その過程で、重要な先行研究であるP. G. Patil著Against a Hindu Godの問題点を指摘した論文「ラトナキールティの存在論―パティルが提起した対象の四分類に対する批判的検討―」を公刊し、知覚の直接的把握対象ならびに〈差異の実体視〉に対する同氏の理解は修正されるべきであることを指摘した。 2) ラトナキールティの批判対象となるニヤーヤ学派による主宰神の存在証明の中でとりわけ重要な役割を果たしたのが、今や断片の形でした知られないアヴィッダカルナの推論式である。この推論式が本来的にはサーンキヤ学派の因中有果説を批判する意図をもっていたことを、ジネーンドラブッディの『集量論註』から回収される初期サーンキヤ思想の断片(ヴァールシャガニヤとその後継者の説)から明らかにした。その成果は、2012年8月に開催された国際シンポジウム(日墺共同国際シンポジウム:伝統知の継承と発展)にて発表した。 3) ラトナキールティの認識論的な立場(多様不二論)と対立するラトナーカラシャーンティの認識論(形象虚偽論)に関して、特にその因果論批判の構造を、『中観荘厳註・中道成就』の解読を通して解明した。その成果は、2012年8月に開催された第5回北京国際チベット学セミナーにおいて発表済みである。 4) ラトナキールティがその著作の中で名前を挙げて言及するジターリの著作について、現在、精力的に新出のサンスクリット写本を研究しているEli Franco教授(ライプチヒ大学)を2012年12月に招へいし、中でも重要な『未来原因説』のテキスト校訂・解読研究の現状について報告を受け、その内容に関する討議を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) 本研究の目的であるラトナキールティの『主宰神証明の論駁』テキスト校訂・訳注研究については、先行研究であるPatilのAgainst a Hindu Godの問題点を明らかにし、本研究が有するであろう意義を明確にしえた。訳注研究も当初の見込み通り、順調に進めている最中であり、平成25年度中の完成の見通しを得ている。 2) ラトナキールティの宗教思想をインド哲学全体の思想史の中に位置づけるという点についても、特にアヴィッダカルナ断片をめぐる研究を進める中で、サーンキヤ学派の因果論との対立という視点を得ることができた。この点では、さらにラトナキールティと同時代人であるカシミール・シヴァ教神学の確立者ウトパラデーヴァの主宰神論証との比較へと進むことになる。 3) ラトナキールティと対立するラトナーカラシャーンティの『中観荘厳註・中道成就』に関するテキスト校訂・解読作業も当初の予定通り、進められている。この点、国際学会等を通して、中国蔵学研究中心のLuo Hong博士と意見交換する機会をもてたことの意義は大きい。 4) 今年度は台湾におけるワークショップにて、漢訳された仏教認識論の文献を通して、インド・中国・日本における論理学の需要に関する討議に参加することができた。そこでの発表では、『因明入正理論』の「相違決定」理解の特異性を考察したのだが、各国の参加者との討議から、比較思想研究における「地域的特性」の重要性を学んだ。 5) 当初の計画に比べて、比較神学の観点から、インドにおける主宰神論証とその批判がもつ意義を考察する機会をもてなかったことは、現時点での未達成項目に挙げられるだろう。ただし、この点については、平成25年度に参加予定のアヴィナヴァグプタ国際学会にて、比較神学にも詳しい参加者と討議をすることで、より具体的な研究の道筋がつけられるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 平成25年度には、当初の予定通り、『主宰神証明の論駁』訳注研究を完成し、論文の形で交換する予定である。この点については、同じくラトナキールティの認識論・存在論に関する研究を進めている、東京学芸大学の稲見正浩教授とも密に連絡をとり、アドバイスを仰ぎながら、より精度の高い研究成果にすることを目指している。 2) ラトナキールティの同時代人であるカシミール・シヴァ教のウトパラデーヴァの著作『主宰神論証』に関して、特にそのサーンキヤ学派の因果論に対する批判がもつ意義を考察し、2013年6月にライプチヒ大学で開催される国際シンポジウムで発表する予定である。これにより、仏教とニヤーヤ・ヴァイシェーシカ学派に限定して考察されてきた主宰神論証をめぐる思想史を、より広範な視点から俯瞰することが可能になる。 3) ラトナキールティの宗教思想の背景となるプラジュニャーカラグプタの宗教思想に関して、特に「知覚=存在説」として知られる彼の独特の存在論に関して、バークリーの観念論のテーゼ「存在するとは知覚されることである」(Esse est percipi)との比較研究を行う。バークリーの観念論は神の知覚を前提として成り立つことを考慮するとき、この比較研究は、本研究が目指す比較神学のための重要な礎石となるであろう。 4) Buhnemannによる独訳研究を参考にしながら、『全知者証明』の訳注研究を開始し、平成26年度内に完成するための作業を進める。これと『主宰神証明の論駁』、ならびに既に発表済みの『多様不二照明論』の訳注研究、稲見正浩教授が進めているラトナキールティの他の著作の訳注研究とあわせ、研究書を公刊することを目標とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度予算を執行する段階で、平成25年度にライプチヒ大学での研究発表の機会があることを知った。これは当初の計画には含まれていなかったものであるが、本研究の遂行上、有益であるため、その渡航費として次年度使用額を残した。その額を加えることで、平成25年度は以下の使用計画で研究費を使用させていただく予定である。 1) 6月にライプチヒ大学で開催される国際学会(International Conference: Around Abhinavagupta, Aspects of the Intellectual History of Kashmir 9th -11th century、6月7日―10日)への渡航費、また、8月にアテネで開催される国際会議(XXIII World Congress of Philosophy)への渡航費として使用する。いずれの会議でも発表予定である。 2) 国内の比較思想学会をはじめとする関連する学会参加のための交通費として使用する。 3) 昨年度から継続し、インド哲学・仏教学関係の図書ならびにキリスト教神学・西洋哲学関連の研究図書の購入に使用する。また、資料の整理・発表に必要とするノート型パソコン等の機器を購入する。 4) 本研究のテーマと密接に関連するニヤーヤ・ヴァイシェーシカ学派の存在論・神学思想に関する研究打ち合わせを行うため、ウィーン大学からKarin Preisendaz教授を短期で招へいすることを計画している。ただし、現時点では、本人の確認がとれていないため、他の候補者に代わる可能性もある。
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Research Products
(5 results)