2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520057
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
佐々木 閑 花園大学, 文学部, 教授 (40225868)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 律蔵 / アディカラナ / 波羅提木叉 / 波羅夷 / パーリ律 / 上人法 |
Research Abstract |
律蔵にあらわれる「アディカラナ」の概念変更を資料的に跡付ける研究と、波羅提木叉の条文の改変過程を解明する研究の両面を同時並行的に行った。前者に関しては、パーリ律を資料として組み上げた基本仮説が、それ以外の律でも成り立つかどうかを確認する、検証作業が中心となった。今年度は、「根本有部律」と『摩訶僧祇律』を取り上げて、その特異点が、私の仮説とどう関連しているかを詳細に分析した。その結果、仮説を裏付ける事象が複数発見され、私の仮説の妥当性が検証された。特に『摩訶僧祇律』については、アディカラナの出現状況が他の律と全く異なっており、その理由をめぐってはAnn Hairan, Shayne Clarkeらがそれぞれに説を提示していたが、その本来の姿が今回の研究で明らかになったことで、この問題には一応の決着がついたものと考える。後者の研究に関しては、比丘および比丘尼の波羅夷法に焦点をしぼっており、今年度は、比丘波羅夷第4条「過上人法」を取り上げ、その中に含まれる、意味不明確な文言が、「条文そのものの内部にも歴史的改変の痕跡が残されている」という私の仮説をもとに分析していくことで、律蔵成立の歴史を語る重要なファクターであることが判明した。この手法を、およそ230ある条文に広く適用していくことで、律蔵成立の様々な状況が解明されるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の最終目標は、仏教の律蔵がどのような過程を経て現在のような形になったのか、その歴史的変遷を解明することにある。それによって、仏教という宗教の現実的な成立状況が理解できるはずである。初年度の研究は、特定の術語概念(アディカラナ)を手掛かりとして、律の成立過程の見通しを立てるという作業と、波羅提木叉の条文の分析により、規則条文の中にも段階的な付加があることの指摘という二点を目標としたが、どちらも予想に達する進展があった。アディカラナ研究に関しては、すでに準備研究の段階でかなり進んだ仮説ができていたので、その仮説の検証を行ったが、仮設を補強する情報が多数得られたことで十分に目標は達成された。条文研究の方は、すでに波羅夷法3条分について、有効な結果が得られており、従来の学会では知られることのなかった、「学処条文内部の歴史的変遷解明の可能性」という新たな視点を提示できたことに大きな意味があると考えている。ただし、学処条文は全部で230条あまりもあるので、その全体を体系的に解明するにはまだかなりの時間と労力が必要となる。残りの年度で、できるだかこの作業を推し進めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
アディカラナ研究に関しては、まだ『五分律』と『十誦律』の個別研究が残されている。特に『十誦律』は、他の律にない独自の構成を持っており、詳細な分析が必要である。「根本有部律」との関連性を探求するうえでも重要な研究となる。もし『十誦律』と。「根本有部律」の関係性が、この研究をとおして明らかになるなら、従来の律研究でも最大の謎の一つとされてきた、説一切有部内の律の存在状況、ひいては説一切有部の部派状況の解明に大きく役立つものと期待している。一方、学処条文の歴史的変遷過程研究については、まず波羅夷第3条「殺人戒」を取り上げ、その条文を分析していこうと考えている。この条文は、従来、因縁譚と条文との齟齬が指摘されており、歴史的なギャップがあるのではないかと疑われてきた。しかしそれを綿密に論証した研究はいまだ現われていないので、今回はその作業に全力を尽くす。この第3条は、「自殺」の問題とも密接に関係しているので、「仏教は自殺という行為をどう理解し、どう対処sきてきたのか」というきわめて現代的な問題に対する解答を提示するという意味もある。この第3条から初めて、まずは波羅夷法全体の研究を進め、そこからさらに僧残など、残りの条文にも考察の領域を広げていくつもりである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の主たる使用目的は資料の購入にあてられる。古代インド仏教の律資料は、主にパーリ語文献、漢訳資料、チベット語資料、そして断片的に発見されるサンスクリットなどのインド語写本資料に分類されるが、これらのうちの前の3者に関してはおおよそ資料はそろってきている。しかし4番目のインド語資料に関しては、近年のアフガニスタン、パキスタン発見資料を中心として新たな資料が続々と発見されてきているので、その収集には労力と財政的裏付けが必要である。世界各地の散在しているこれらの資料を収集し、情報を集めるために、研究費の幾分かをあてるつもりである。また、今回の研究の成果は、日本よりもむしろ東南アジアや台湾、韓国、チベットといった海外仏教国の僧侶や研究者たちに大きなインパクトを与えることになると思われるので、研究成果を英語で発表する必要がある。そのための種々の経費にも研究費を利用するつもりである。
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Research Products
(3 results)