2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520057
|
Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
佐々木 閑 花園大学, 文学部, 教授 (40225868)
|
Keywords | 律蔵 / 波羅提木叉 / vivadamula / 波逸提 / アディカラナ / 諍事 |
Research Abstract |
仏教僧団の法律体系である律蔵を,文献学的に分析し,内部の新古関係を明確化することによって,その成立史を解明するというのが研究の主旨である。昨年度の作業では,過去5年間にわたって継続してきたアディカラナ(諍事)研究の一環として,アディカラナ関連記事の中に現れるvivadamulaの概念を,律蔵だけでなく経典類にも広く調査し,新たな見解を展開した。それによれば,すでに私が提唱している,アディカラナ概念の三段階成立説が補強されることになる。 また,波羅夷第三条「殺人戒」を分析することで,従来の研究からは知られることのなかった新たな歴史的展開の痕跡を発見した。従来の研究では,この条文には「自殺禁止」の意味合いが含まれていると解釈されていたが,詳細に分析することで,そこには自殺の概念が全く含まれていないことが判明し,最初期律蔵の成立状況に関する貴重な情報を得ることとなった。 さらには三つ目の研究として,比丘波逸提法の中の「比丘尼教誡」の条文内容が,六本の律すべてで異なっているという新事実を見出し,律蔵の解体的研究におけるあらたな基点をつくることができた。このような例は従来一例も知られておらず,律の学処条文でさえも,歴史的に大きく改変されているという事実を示したことは意義がある。今後,これらの諸点をさらに掘り下げ,仏教聖典の成立史解明へと繋げていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の研究は,三方面からそれぞれに独立した作業を行い,それぞれに,従来の研究では知られることのなかった新事実を見出すことができた。そのすべてが,律蔵の歴史的展開過程の解明につながるものであり,仏陀時代の原初的聖典が現存形へと変容していく歴史を知る上で重要な研究基点となるものである。この先の研究における安定した支点を獲得することができたという点で,大いに研究は進展したものと考える。 第一の,アディカラナ研究におけるvivadamulaの分析は,私が主張しているアディカラナ概念の三ステップ成立説を強く補強する証拠が得られたという点に意味がある。三ステップ成立説が成り立つなら,それに附随して,学処,語義解釈部分,けん度部(滅諍けん度後半部を除く),そして滅諍けん度後半部という,おおきな区分の歴史的新古関係が確定することになるので,「律蔵」全体を,時代的に四ないし五のパーツに切り分けることが可能になる。これは,律蔵を解体していくという今回の研究目標にとっては,画期的な成果である。さらにこの作業を続けることで,切り分けパーツの数を増やしていき,最終的には詳細な成立過程の解明が可能になるものと期待している。 残りの二つの方向についても,「律蔵が文献学的に解体可能である」という事実を示したという点で,今後の研究にとっての重要な支点となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の方向性として,アディカラナ研究に関しては,1,2年のうちに最終結論を出し,全体をまとめるかたちで報告を出版するつもりである。すでに詳細な分析は終了しているので,それを連結する形で,現存するすべての律蔵資料に関わるアディカラナ成立論を提示するつもりである。 二番目の波羅夷第三条「殺人戒」については,律蔵の他の条文との関連性,注釈文献の記述の検討,経典類での「殺人」「自殺」の扱いの歴史的変遷など,幅広く調査し,その流れの中に波羅夷の記述を位置づけることで,この部分が仏教史のどこの位置づけられるかを確定していく。これにより,仏教文献全体の中での波羅夷学処条文の位置が明確化されるものと期待している。 三番目の波逸提「比丘尼教誡」条文については,六本の律蔵すべてにおいて相違している理由を追跡し,一本の条文が歴史の中でどう変遷したかを跡づけることで,六本の律の成立順を確定していきたいと思っている。
|
Research Products
(4 results)