2012 Fiscal Year Research-status Report
寺院仏教とソーシャル・キャピタルー過疎・中間・過密地域の比較
Project/Area Number |
24520062
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
櫻井 義秀 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50196135)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川又 俊則 鈴鹿短期大学, 生活コミュニケーション学科, 教授 (40425377)
猪瀬 優理 龍谷大学, 社会学部, 講師 (60455607)
大谷 栄一 佛教大学, 社会学部, 准教授 (70385962)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 過疎 / 寺院仏教 / ソーシャル・キャピタル / 人口減少社会 / 真宗大谷派 / 浄土真宗本願寺派 / 真宗高田派 / 浄土宗 |
Research Abstract |
本研究では、寺院の社会的機能を項目ごとに調べ上げるだけではなく、檀徒・信徒(門徒)のメンバーシップと行事参加(信仰の深まり)が、寺檀関係や門徒同士の同朋意識を強化するだけではなく、地域社会への参加、他者への信頼、社会倫理の獲得に結びついていくというソーシャル・キャピタル論の抽象的な命題を観察可能な行為・イベントから分析するものである。 本年度の研究では、①ソーシャル・キャピタルと地域寺院との関係を理論的に考察することと、②過疎地域の寺院調査を実施することを柱とした。 研究代表者の櫻井義秀は、2012年には浄土真宗本願寺派の福井教区の寺院(福井県福井市,鯖江市,越前町等)と真宗大谷派高山教区(岐阜県高山市荘川町,大野郡白川村等)の寺院を調査した。分担者の大谷栄一は浄土宗の総合研究所での機関調査を主に行った。川又俊則は真宗高田派の宗務所調査と、津市郊外の過疎地域の寺院調査を実施した。猪瀬優理は、広島県三次市において浄土真宗本願寺派の研究所と共同で調査を行い、また、櫻井と合同で福井県の調査にも参加した。 これらの調査研究の成果は、12月22日京都市の京都キャンパスプラザにて共同研究会を行い、有益な情報交換を行うことができた。また、共同通信の西出勇志氏にも出席してもらい、ジャーナリズムからのコメントと、取材している住職の寺院経営塾についての報告も受けることができた。 今後は、日蓮宗他他教団の過疎対策をも教団付設研究所の資料等を参照しながら検討し、教団間の比較研究をも行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、研究代表者の櫻井は,大阪大学大学院准教授の稲場圭信との責任編集で叢書『宗教とソーシャル・キャピタル』全4巻(明石書店,2012~2013年)を企画した。このなかで,宗教制度と組織が生み出すコミュニティや互助協働への志向性を検討してみたが,多くの論考は地域の宗教施設や宗教者の地道な取り組みを調査したものである。研究者の論考のみならず,地域福祉や医療現場,NGO/NPOやボランティア活動の実践を行っている方にもコラムやインタビューという形で現状と課題について語ってもらっている。現代日本の宗教団体や宗教文化がどのようにソーシャル・キャピタルの構築や活性化と関わっているのかが論じられている。 また、櫻井は上記叢書の第二巻『地域社会をつくる宗教』において第4章「過疎と寺院」を担当することができ、また、関連する業績として、「限界寺院からソーシャル・キャピタルの寺院へ」『社会と調査』10:97-101、「論説 人口減少社会における心のあり方と宗教の役割」『宗務時報』115:1-18をまとめることができ、本研究課題を社会学者、宗教研究者と宗教実務家に示すことができた。 上記の諸論考では、時代の価値観が定まらない現代において,宗教にはどのような役割が期待されるのかを考察した。この問題を考える思考の補助線として,過疎化によって地域社会の存続が危ぶまれている地域において,寺院仏教がどのような活動を地域社会で維持し,将来を展望しているのかを論じてきた。地域社会に寄り添うという寺院のあり方は消極的に見えるかもしれないが,地域福祉という観点から一つの可能なあり方と言えるのではないか。その論点を宗教が形成するソーシャル・キャピタルという議論に展開し,現代宗教の可能性として地域社会に信頼,互恵的社会関係を取り戻すネットワーク作りという新たな課題を提示しえたものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで研究領域の概観と理論的研究は十分に行えたが、ソーシャル・キャピタル論の指標に関して理論的検討を残している。具体的には、社会関係資本の概念・評価法は研究領域において多様であり(Nan Lin,2011,Social Capital vol.1-4,稲場陽二他,2011『ソーシャル・キャピタル論のフロンティア)、集合的価値規範を重視するか個人が活用可能なネットワーク資源とみるかで測定法も異なる。本研究では、宗教とソーシャル・キャピタルを論じる国際比較研究の方法論を採用し(Noris & Inglehart,2004, Sacred and Secular: Religion and Politics Worldwide)、住職・門徒の価値意識や寺檀関係へのコミットメントと地域社会・一般社会への関わり、価値志向性との関連を意識調査や具体的なイベント分析によって明らかにしようと考えている。これを実施するための指標・測定法の問題が解決できていないので、この点をさらに検討する。 実証研究の面では、本来予定していた各宗派の教学研究所もしくは教区教務所の協力を得て過疎地域/中間地域の調査をなしえたが、過密地域(都市部)の寺院の選択と住職対象のプレ調査をを残している。都市寺院における新寺建立がどのように具体的に進められているのか、各宗門ごとの比較検討を本年度内に行いたい。そのことによって、真宗大谷派、浄土真宗本願寺派、真宗高田派の浄土真宗の三大宗派と、浄土宗の比較と、過疎地域(限界集落)/中間地域(地方都市)/過密地域(大都市)の三地域間の比較を行うことで、寺院と地域社会に埋め込まれた宗教文化・社会関係との対応に関しておおまかな見通しをつけることができよう。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度には、研究成果の学術的な発表を関連学会におけるテーマセッション等で行い、公刊をみこんだ調査報告書を作成する。また、宗門関係の研究会、講演会等においても調査結果の還元を積極的に行う予定である。
|
Research Products
(4 results)