2013 Fiscal Year Research-status Report
市場経済批判としての「知的障害者との共同生活」運動の思想・実践的可能性の研究
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24520070
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
寺戸 淳子 専修大学, 文学部, 兼任講師 (80311249)
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Keywords | 宗教学 / 倫理学 / 共生社会 / 障害者 / ボランティア / 市場経済 / 家族 / カトリック |
Research Abstract |
1.具体的研究内容 (1)実地調査:8月11日から9月16日まで、本研究課題の調査対象である〈ラルシュ〉共同体の一つ、トロント(カナダ)のDaybreak共同体で、フィールドワーク(参与観察)を行った。Daybreak共同体にあるグループホームの一つに住み込み、アシスタントの仕事を経験させて頂きながら、コア・メンバー(知的障害を持つ入居者)や他のアシスタントと同じ日常生活を送り、そのなかで交わされる日常会話を重視した調査を行った。同時に、他のグループホームのメンバーやアシスタント、ボランティア、退職者、事務局スタッフ、コア・メンバーの家族、その他関係者へのインタビューを行い、また、Daybreak共同体が提供しているさまざまなサービス部門・活動の調査、および、その利用者に対するインタビューも行った。多くの人の協力を得て、Daybreak共同体の活動全般についての調査ができただけでなく、〈ラルシュ〉共同体全体(世界各地に存在する〈ラルシュ〉共同体)の相互関係についての情報や、〈ラルシュ〉共同体が同時代に向けて発しているメッセージとその存在意義についてのあらたな視座も得られた。今回知り合った方たちとは、今後もメールを通して調査に協力していただけることになっており、非常に有意義な調査となった。 (2)資料研究:Daybreak共同体で入手した資料、特に、そのホームの一つに住んでコア・メンバーと交流しながら精力的な執筆活動を行った、世界的に(日本でも)有名な神学者ヘンリ・ナウエンの著作を中心に、読み込みと分析を進めた。 2.当該年度の研究の意義と重要性 昨年度調査を行った静岡県の〈かなの家〉とは、状況・規模(公的支援、社会的認知度・影響力、多角的活動・事業展開、世界各国からの若者ボランティア)が異なる共同体で調査できたことで、各共同体の社会状況への応答の違いについて、認識と考察が深まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績概要」に記したように、前年度の国内調査に続き、本年度のカナダにおける海外調査も順調に進み、計画通り、「国ごとの比較」が可能な状況となった。反面、現在〈ラルシュ〉共同体で進行中の「国際的な組織改革」については、調査を進める過程で当初予想していた以上に「国・地域」ごとのローカルな改革が重視されていることがわかり、計画の修正が必要になる可能性が出てきた。この点については、26年度夏に予定しているフランス(組織の国際本部)での調査後に検討する。また、24・25年度は「市場経済」批判という面を重視して考察を行っていたが、近代的(19世紀以降に欧米で社会的合意を得ていった)「家族」概念の検討が非常に重要である(本研究で比較する日・加・仏では、「市場経済」という条件においては大きな違いはないのに対し、「家族」をとりまく社会状況は異なる、という点からも)という認識にいたり、この研究が26年度の課題として残った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、パリの〈ラルシュ〉共同体で調査を行う。静岡県の〈かなの家〉とカナダのDaybreak共同体での調査も続行する。現在執筆中の、「宗教と公共性」をテーマとする論文集のための論文で、「家族」と「公共性」の関係について考察を行っており、その成果を生かした調査を計画している。また、現在執筆中のもう一本の論文のテーマである、近代カトリック世界における「アソシエーション」(「家族」とも「共同体」とも異なる「有志の集い」)の発生・活動史、および意義という視座からも、考察を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は国内調査のみで海外調査は行わず、その経費を次年度以降に繰越して25・26年度に海外調査を実施することにしたため、経費の配分が当初とは異なる結果となった。 フランスでの調査を実施するために用いる。このため支出の大半は旅費に充てられる予定である。
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