2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520071
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
渡辺 祐子 明治学院大学, 教養部, 教授 (20440183)
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Keywords | 近代中国 / キリスト教 / 政教関係 |
Research Abstract |
2013年度、申請者は特別休暇を利用して、都合4か月中国湖北省武漢の華中師範大学東西方文化交流研究センター、上海大学、香港大学等を拠点に在外研究を行った。そのうち一月分の滞在費、旅費等はすべて科研費を用いたものである。 在外研究の最大の目的は、貴重資料の収集と中国人研究者との交流であった。後者については、たとえば上海大学主催のセミナーで発表したり、香港の複数の研究者の知己を得、実りある交流を行なったりするなど、予想以上の成果を上げることができた。 しかし、本研究課題に必要な資料の収集という点では思った以上の収穫は少なく、計画していた研究の進捗は必ずしもはかばかしくなかった。だがその反面、貴重な興味深い資料を発掘することができた。なかでも武漢伝道の開拓者であるプロテスタント宣教師、グリフィス・ジョンに関する資料は、報告者を研究課題の軌道修正に踏み切らせるに十分な魅力を有していた。中国でも日本でもほとんど本格的な研究がなされていないことに鑑み、同宣教師の研究を手掛けることには大きな意味があると思われた。 グリフィス・ジョンは、該地で50年にわたって伝道活動を行うかたわら、教育、出版、医療の領域において武漢の近代化に多くの足跡を残したが、それだけれなく、19世紀末からの革命運動を辛亥革命前夜まで実際に目撃している。ジョンの資料を丹念に紐解くことによって、今年度の研究課題である「ナショナリズム形成とキリスト教」研究に必要な材料も拾い出すことが可能である。報告者はこのように判断し、収集した資料を用いて論文「華中伝道の祖 グリフィス・ジョン試論」を執筆した。 さらに上海では、国立上海図書館を中心に清末民初のキリスト教関連漢文資料を収集、香港では、香港大学図書館にてグリフィス・ジョン関連のミッション・アーカイブ(マイクロ資料)を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2013年度は、「信教の自由」「政教分離原則」が清末から民国期に至る中国社会の中でどう理解され、導入されたかという問題を明らかにすること、さらに民国期における「キリスト教教育の自由」=「信教の自由」とナショナリズムの対立という事態を、外国人宣教師がどのようにとらえ乗り越えようとしたのかを考察することを目的とし、そのためのの資料収集を武漢、上海、香港で行うことを予定していた。 しかし最も長く滞在した武漢では、課題研究に必要な資料を集めることができなかった。その一方で、計画していた研究テーマに直接的には関わらない他の資料が見つかったため、急きょ予定を変更し、新たなテーマでの論文執筆に踏み切った。 上海図書館では「ナショナリズムとキリスト教」の関連を考えるうえで有用な清末民初の貴重資料を閲覧、収集することができたが、計画していた研究課題に沿って論文を執筆する段階にまでは至らなかった。報告者の専門領域である近代中国キリスト教史研究という広い見地に立てば、研究の進捗は遅れているとまでは言えないが、上記の理由から、本研究課題に関してはやや遅れているという自己評価を下さざるを得ない。、
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Strategy for Future Research Activity |
本研究最終年度の今年度は、昨年度十分に追及できなかった「キリスト教教育の自由」「信教の自由」と中国ナショナリズムの対立というテーマを、上海図書館等で収集したキリスト教漢文メディア資料等に基づきおこなう。おりしも今年度は1989年に起きた天安門事件25周年にあたり、現在の中国の政治状況と相まって、現実の信教の自由の問題にも世界中の研究者の耳目が集まっているが、最も関心を集めるているのは政治問題としての信教の自由であり、歴史的研究は等閑に付されている向きがある。その点からも本研究が持つ意味は決して小さくないであろう。 一方で、武漢および香港大学図書館で集めたグリフィス・ジョン関連資料を活かした研究を並行して行ってゆきたい。 後者は時代的には本研究課題の対象時期よりも若干さかのぼることになる。しかし「信教の自由」=「キリスト教伝道の自由」を行使し、時には激しい反発を受けた宣教師、グリフィス・ジョンの50年にわたる足跡を定点観測的に深く考察することを通して、この近代的価値が具体的な「キリスト教布教の現場」にどのように定着していったのかを明らかにすることができるものと思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
在外研究年に当たっていた昨年度は、当初一年間中国を中心に外国に滞在する予定であったが、個人的な家庭の事情により滞在期間を大幅に短縮した。加えて、アメリカもしくはイギリスの資料館でミッションアーカイブを収集する予定であったが、目的の資料が香港大学に所蔵されていることが分かったため、行先を香港に変更した。これらの事情により、渡航費、滞在費ともに予算よりも少ない支出となった。 8月にタイ、チェンマイ、10月に中国山東省で開催される国際学会に出席を要請されているので、そのための渡航費、参加費、滞在費に充当する。加えて昨年度収集しきれなかった資料を集めに、再度香港に飛ぶ計画を立てており、その旅費にも充てる予定である。
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Research Products
(7 results)