2012 Fiscal Year Research-status Report
葬送における遺品・貨幣・交換の宗教学的研究―唱衣法の事例から―
Project/Area Number |
24520076
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The Eastern Institute |
Principal Investigator |
金子 奈央 公益財団法人中村元東方研究所, その他部局等, 研究員 (00558538)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 仏教儀礼 / 葬送儀礼 / 宗教と経済 / 交換と互酬性 / 東アジア宗教史 / 遺品と貨幣 |
Research Abstract |
本研究は、中国・日本の諸禅宗清規に記載される唱衣法の文献学的分析を基礎として、唱衣に見られる遺品・貨幣・教義という要素の交換につき宗教学的観点から考察し、死に直面した宗教的共同体が葬送儀礼を通じて日常性を回復するに際して、貨幣を媒介とする交換・経済的要素が果たす役割を明らかにすることを目的としている。 本年度は、中国において成立した以下の諸清規における葬送儀礼・唱衣法とその儀式次第・葬送における遺品と貨幣との動きについて文献学的観点から確認を取った。 【読解の対象とした中国成立の諸清規】:『禅苑清規』(1103年成立)、『入衆須知』(1208-1224年頃の成立)、『叢林校定清規総要』(1274年成立)・『禅林備用清規』(1311年成立)・『幻住庵清規』(1317年成立の序あり)、『勅修百丈清規』(1336年成立)など。 本研究の目的からすればこれらの文献学的読解は基礎的作業となる。また、唱衣法については『禅苑清規』以降に成立した諸清規を集大成した性格を持つ『勅修百丈清規』における記述がもっとも詳細であるが、本年度行った中国成立の諸清規における葬送儀礼・唱衣法の記述の確認作業からは、各清規が成立した背景や事情によって記述に差があることも分かった。例えば、遺品と交換された貨幣の用途や分配方法が異なること、葬送儀礼における遺体の状態と唱衣法実施のタイミングに関する記述、唱衣法の始原に関する記述などである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、中国成立の諸清規における葬送儀礼・唱衣法に関わる記述を読解し、文献学的に確認することを目標の一つとしており、この点についてはほぼ達成できたと考えている。 しかし、当初の予定では、仏教における遺品処理の歴史的変遷を押さえた上で、中国における葬送儀礼の特長とも照らし合わせながら対象とするテキストを読解することも目標としていた。この点については、本年度は手がついていないため、来年度において継続して行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、仏教における遺品処理の歴史的変遷・中国における葬送儀礼の特長を押さえた上で、中国成立の諸清規における記述の読解に抜けている部分がないか確認を取った上で、日本において成立した禅宗清規および清規関連文献における葬送儀礼・唱衣法の記述につき文献学的に確認を行う。 中国成立の諸清規については主として翻刻公刊済みのテキストを用いたが、日本において成立した清規および関連テキストについてもまず、翻刻公刊済みのテキストを用いて読解するが、写本類についても積極的に確認を取る予定にしている。 今後は、対象とする文献の読解を基礎として、宗教学・社会学・文化人類学の領域における葬送儀礼論・贈与交換論・貨幣論の成果・知見を吸収し、こうした理論と文献学的成果を接合させて、宗教的共同体における遺品の意義・葬送における貨幣の機能について考察を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度においては、本務との関係上、情報収集・資料確認のための出張が予定通り行えなかったため、次年度においては時間を工夫して情報収集・資料確認のための旅費を使用する予定である。 また、平成24年度においては研究対象とする文献の読解が研究の中心となり、当初予定していた研究用文献のデータベース構築作業に取りかかれなかったため、次年度にデータベース作成に適しかつウィンドウズOSも使用できるアップル社のコンピューター、その他プリンター、スキャナーも購入して研究用文献のデータベース化にも着手する予定である。 また、写本などの資料確認に際して、写真撮影が可能であれば行いたいと考えているため、次年度には高性能のデジタルカメラも購入する予定にしている。
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