2013 Fiscal Year Research-status Report
葬送における遺品・貨幣・交換の宗教学的研究―唱衣法の事例から―
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24520076
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Research Institution | The Nakamura Hajime Eastern Institute |
Principal Investigator |
金子 奈央 公益財団法人中村元東方研究所, その他部局等, 専任研究員 (00558538)
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Keywords | 宗教儀礼 / 宗教法 / 禅宗清規 / 宗教と経済 / 比較宗教学 |
Research Abstract |
平成25年度は、引き続き中国撰述の禅宗清規に記載された唱衣法の記述につき、叢林における遺品などの財の移動や諸清規の土台となる法意識といった文脈から考察を加えた。当初の研究計画では、日本において撰述された諸清規や清規関連テキストの文献学的分析に取りかかる予定ではあったが、中国撰述の諸清規に記載される唱衣法について、叢林内における財産の移動や諸清規の土台となる法意識という文脈からも確認する必要があると考えたためである。 特に、『勅修百丈清規』に次いで詳細な内容を持つものの、研究の手薄な『禅林備用清規』を中心に考察を加え、その成果については、学会発表や論文として発表できた。 『禅林備用清規』では、唱衣を含む送葬の項目のほか、役職の交替時における引継ぎ等の項目において、叢林の財産の移動の記述があり、禁止事項として横領・目的外支出が指摘されている。こうした記述から、叢林財産の横領や詐取といった形での財の移動と、唱衣にまつわる財の移動について、財の元来の所有権・禁止や諫めとして取り上げられる言説といった観点から比較考察を行った。ここから、唱衣をめぐる財の移動によって関連する三者―死者・叢林・一般僧侶―がともに利益を得るという構造を持つこと、横領や詐取が起こる叢林環境の中で、唱衣が叢林にとって損失を伴わない収入の機会であるがために、横領や詐取の諫めのために、禅宗清規という法における最重要の象徴である百丈懐海の逸話が提示されていると考察しうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中国成立の諸禅宗清規における唱衣法の記載については、おおむね確認と分析を完了させている。しかし、諸清規が土台とする法意識や、記載される財産の移動といった観点から唱衣法を考察するのに思いの外時間がかかり、本来平成25年度に予定していた、日本成立の諸清規・清規関連テキストにおける唱衣法の分析にいまだ手がついていないためである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度からは、引き続き中国において成立した禅宗清規について、唱衣法だけではなくより広く葬送儀礼の流れやその法意識・財の移動の記述について確認を取る。これに加えて、日本において成立した諸清規・清規関連テキストにおける唱衣法の記述や解釈について分析を開始する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度には、日本において成立した諸清規の分析を行うことを予定し、写本や貴重文書などの閲覧のための国内出張も考えていた。しかし、中国成立の諸清規における唱衣法の考察に思いの外時間がかかったため、学会での発表や関連シンポジウム聴講のための出張を行えたのみであったため。 平成26年度においては、日本において成立した諸清規・清規関連テキストの分析に着手できるため、関連する貴重資料等の閲覧のため、国内出張が増える予定である。これら日本における唱衣法の分析と考察により得られた成果については、平成24年度・平成25年度で得られた成果との比較研究も行う予定である。
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