2014 Fiscal Year Research-status Report
葬送における遺品・貨幣・交換の宗教学的研究―唱衣法の事例から―
Project/Area Number |
24520076
|
Research Institution | The Nakamura Hajime Eastern Institute |
Principal Investigator |
金子 奈央 公益財団法人中村元東方研究所, その他部局等, 専任研究員 (00558538)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 宗教儀礼 / 宗教と法 / 宗教共同体と葬送 / 宗教における経済 / 死と互酬性 / 禅宗清規 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度においては、14世紀前後までに日本において成立した諸清規文献における葬送次第・唱衣法の記述の分析に着手した。具体的には、栄西の『興禅護国論』、道元撰述の諸清規、『慧日山東福寺行令規法』、『瑩山和尚清規』、『大鑑清規』等がある。これらには、唱衣の記載がない、あるいは記載があっても仏事の一つとして挙げるに留まったり、定式である唱衣念誦・回向のみが挙げられていた。 ところが、初期の日本曹洞宗の禅師たちの葬送の記録である『喪記集』には、送葬における唱衣について具体的な記載が確認された。中国撰述の諸清規における唱衣関連の記述と、『喪記集』における唱衣関連の記述を比較することにより、下記の通り、日本における唱衣法の移入と展開につき、幾つかの点が確認できた。 ①『喪記集』においては、中国撰述の清規類と同様に、一次葬と二次葬との間、少なくとも一次葬以降に唱衣が位置づけられていた。②「提衣」・「抄剳」の用例比較から、『喪記集』においては、住持・尊宿死亡の際には、嗣法の弟子への遺品の伝授に重きが置かれていると読み取れた。③中国撰述の諸清規では、唱衣実施にともなって叢林・一般僧侶に現金収入がもたらされ、競売品となる遺品の基準価格の設定は新旧など遺品の品質に基づくとともに、競売の際にも品質に基づいた落札が推奨されていた。一方、『喪記集』に収録される「徹通義介禅師喪記」と「通幻寂霊禅師喪記」の記述からは、唱衣の収入額や葬送の支出状況が記載されるとともに、葬送実施および寺院の公金からの借入返済は必須ではあるものの、死亡した禅師の財政状況や唱衣の収入状況から、僧侶への現金の配分が出来ない場合も多いこと、古びた遺品であっても高く買い取ることが勧められていると読み取れる。ここからは、遺品の品質ではなく、遺品の帯びる意味に対して価値を認めて高額での落札を勧めていた可能性が伺える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究開始当初の予定では、平成26年度には日本において成立した諸清規及び清規関連文献における唱衣法の記載についての分析を終える予定であった。しかし平成25年度までの研究の進展においては、中国成立の諸清規における唱衣法の記載にとどまらず、叢林社会における財の移動・継承の手続きといった経済・法的側面の確認を行う必要が出てきたため、中国において成立した諸清規文献の分析に思いの外時間がかかった。そのため、平成26年度に分析を開始した日本成立の諸清規文献については、14世紀前後までに成立した諸文献の分析に留まってしまったため。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方法については、平成26年度の研究につなげる形で、14世紀以降に日本において成立した諸清規・清規関連文献に記載される葬送・唱衣法の記述について分析を進める予定である。日本曹洞宗・臨済宗において成立した諸清規だけではなく、室町期五山禅林における『勅修百丈清規』の講義・解釈の記録である『百丈清規抄』や、近世における妙心寺の学僧として名高い無着道忠の清規解釈、近世の黄檗禅の影響に対して日本曹洞宗における儀軌の復古を推進した面山瑞方による清規解釈に関する文献についても、分析の射程とする予定である。 また、国際学会や関連分野での研究会において、研究の成果を発表する予定にしている。
|
Causes of Carryover |
平成26年度には、当初計画では10月に地方都市にて開催される学会に参加し、聴講の上、研究動向の調査収集を行う予定にしていたが、他の業務のため参加を断念せざるを得なかった。また、当初計画では平成26年度に、研究テーマに関する宗教学的・文化人類学的分析のために関連書籍を購入する予定にしていたが、文献学的分析を優先したため、宗教学的・文化人類学分野の書籍購入については計画よりも支出が下回った。その他、査読論文投稿の際の英文要旨校閲の支出を予定していたが、こちらも翌年度にずれ込むことになったため、次年度使用額が生ずることとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度には、ドイツのエアフルト大学にて開催されるIAHR大会にて、主として昨年度までの研究成果を発表する予定である。研究期間の最終年度にあたることから、当初計画通り、日本において成立した諸清規・清規関連文献における唱衣法の記述につき文献学的分析を完了してデータをまとめた上で、禅宗清規に記載される唱衣法に関して、宗教学的・文化人類学的観点から考察を加えて、『宗教研究』など関連分野の学術雑誌に研究成果を投稿する予定である。
|