2012 Fiscal Year Research-status Report
ソクラテス以前哲学における「自律主体としての自己知」の成立とその史的影響の研究
Project/Area Number |
24520084
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
三浦 要 金沢大学, 人間科学系, 教授 (20222317)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 自律性 / 自己 / ソクラテス以前 / ヘラクレイトス |
Research Abstract |
本研究の目的は、ソクラテス以前哲学における自律的主体としての自己の概念の確立と、その後のギリシア哲学の自己概念とのその連接のあり方を考察するものであるが、当該年度においては、当初の実施計画通り、まず叙事詩の時代における「自己」把握を考察した。そこでは、「汝自身を知れ」というデルポイ神殿の碑に典型的に見られるように、人は、神との対比において自らを死すべき者であり、神から与えられた自らの持ち分としての運命を甘受しなくてはならないのだと考えていた。宿命論の枠組みの中では、人は原則的に自由意志の主体とはなりえず盲目的必然の中にとらわれた存在であった。 これに対して、この碑文をまったく異なった文脈で捉えようとした最初の哲学者がヘラクレイトスである。彼はこの碑を単なる処世訓ではなくまさに自己本性の探究を命じるものと見なした。そのさい彼は、魂としての自己の認識を哲学的探究の範型となした。魂はロゴスによって規定されており、外的世界もその同一のロゴスによって規定されている。魂のありようを知ることがそのまま世界を知ることでもあり、自己と世界とは通底しているのである。 ロゴスを原理とするこのような自然学的決定論の中で、彼は人間の自由な行為選択の可能性を追求する。つまり世界の規則性・法則性を魂が認識すること(すなわち自己認識)により魂はより合理的に行為できる。自らを支配している自然的局面の規則性が分かれば、行動的局面においてそれを利用すればよい。それが端的に表れているのが、「エートス」の形成や改変を神でなく自己自身に帰する点である。「エートス」こそは人の行為の内的動因であり、生の質もこれに基づく行為選択の積み重ねに依存する。ここに、いかに生きるべきかというヘラクレイトスの切実な問いが見て取れ、そうした問いを立てる限りにおいて、彼は人間の行為における自律性の存在を前提としていると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、①叙事詩の時代における「自己」把握の仕方の解明、②ヘラクレイトスにおける自律的「自己」発見の意味の検討、を当該年度の研究の対象としていたが、いずれの点もフォローできたと考える。ただ、①に関しては、「運命」をめぐる叙事詩時代の理解、特に「運命論」の枠組みの中で人間の「意志」というものがどのように捉えられていたのかという点をさらに深める必要性を感じている。「おおむね」と自己評価したのはそのような理由による。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に大きな変更はなく、今後の研究課題の推進方策については、当初の計画通り、史的影響関係という視点から、各哲学者(特に次年度は多元論者)の著作原典および二次資料を研究書・論文も参照しつつ精確に読解し、それを踏まえて彼らの自己概念を比較検討するというものになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、当初予定していた海外調査研究を健康上の理由からとりやめ、次年度に実施することとしたために使用されなかった「外国旅費」である。当初計画では次年度も海外調査研究を予定しており、今年度未実施の海外調査研究については、次年度に当初よりも期間を延長して実施することとし、「次年度使用額」はそれに充当する予定である。
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