2013 Fiscal Year Research-status Report
ソクラテス以前哲学における「自律主体としての自己知」の成立とその史的影響の研究
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24520084
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
三浦 要 金沢大学, 人間科学系, 教授 (20222317)
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Keywords | 自律性 / 自己知 / ソクラテス以前 / エンペドクレス / デモクリトス / 死の認識 / エピクロス |
Research Abstract |
当該年度においては,当初の実施計画通り,多元論者(特にエンペドクレスとデモクリトス)における「自己」把握を考察した.また,自己知については「死」の認識も一つの重要な要素となるが,デモクリトスの原子論を継承するエピクロスの死無害説についても補足的にその意味を合わせて考察した. まず,エンペドクレスにおける輪廻転生の主体はダイモーン(神霊)と呼ばれ,これが人格の座あるいは自我そのものである.伝統的な死すべき者と不死なる者の境界は消失し,ダイモーンは不死なる者へと接近しているがその神性は擬似的であり自然学的原理の真正なる神性に由来する.自然学的決定論の枠組みの中で,ダイモーンは健全なあり方を求める自然本性的衝動を有し,その限りで目的論的な傾向を認めることができる.更にエンペドクレスは,衝動的な行動だけでなく熟慮に基づく行為選択をダイモーンに認め,その意味で彼の決定論はsoft determinismと言える. また,原子論的自然学を前提に快楽主義を唱えていたのがデモクリトスである.彼の自然学と倫理学との間に有機的関係があるとすると,彼の倫理学には自律的人間が成立する余地はないように思われる.しかし彼においてもまた,行為の起源を自らの内にもつ「私」が構想されている.彼は,自身の魂の中に道徳法則(内面化された他者)を確立することをひとに求めている.「私」は,物質的基盤をもちながらも決定論の支配を受けない意図や欲求や思慮によって自律性を保持している. 自己知の内実としての死の認識を明確に問題化したのが原子論者エピクロスである.彼は直観に反して認識不可能性を前提に死の無害を説く.これには様々の反論が寄せられているが,経験の要件と時の要件は排除し難い以上,少なくとも一人称的な死の無害は容易に排除できない.それは死が通常の害悪とは根本的に異なる特殊性を有していることの証左でもある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では①エンペドクレスにおけるダイモーンとしての「自己」概念と転生の中の同一性の保持,②デモクリトスにおける原子論的「魂」観,の二点を当該年度の研究の主要対象としていたが,いずれの点も前年度からヘラクレイトスとの関係ですでに予備的考察を行うことができており,現在までに予定通りフォローできたと考える.また,今年度は自己知の内実の一つをなす死の認識に関連して,デモクリトスの原子論を批判的に継承したエピクロスの「死の形而上学」について、特に現代の死有害説からの批判を検討する形でまとまった考察を行った.当初,エピクロス哲学については,デモクリトス的原子論の枠組みの中での精神としての自己と身体としての自己の関係を考えるために補足的に比較検討が必要になるだろうと予想していたのだが,今回は,その点での比較検討は行わず,むしろ「死の認識」という点から,しかも現代の哲学からのエピクロス批判を検討する形で考察をした.「おおむね」と自己評価したのはそのような理由による.
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に大きな変更はなく,今後の研究課題の推進方策についても,当初の計画通り,史的影響関係という視点から,各哲学者(特に次年度はヘレニズム期のストア派)の著作原典及び二次資料について,研究書・論文を収集・参照しつつ精確に読解し,それを踏まえて彼らの自己概念を比較検討するというものになる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」(499059円)が発生した主な理由は,①当初予定していた海外研究機関における調査研究(約3週間)を健康上の理由等から1週間にしたこと,②今年度納入予定であった洋書籍の一部に,発刊が遅れて次年度にずれ込んだものがあること(8冊:概算で190000円),である. まず外国旅費については,次年度も海外調査研究を予定しているが,この期間を延長して,今年度,期間短縮のために実施が十分できなかった部分についても補完することとし,また,未納入書籍も次年度中には発刊される予定であり,「次年度使用額」をこれらに充当する予定である.
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