2013 Fiscal Year Research-status Report
コンディヤックとボネに見る感覚から知性への発展-感覚論哲学比較研究-
Project/Area Number |
24520085
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
飯野 和夫 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (30212715)
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Keywords | 感覚論 / コンディヤック / ボネ / デリダ / 知性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、コンディヤックとボネという18世紀の二人の代表的感覚論者を共に視野に入れた、感覚論哲学の総合的研究の第一歩をしるすために、二人の感覚論の比較を本格的に進めることである。感覚論は、感覚から知性が発展すると見なす点に特質があるが、この発展の過程の分析を中心に据えて比較研究を進める。また、感覚論全体の現代に通じる意義をも究明しようとする。 平成25年度は、前年度に続いて、コンディヤックについて、彼の感覚論の内容が少しずつ変遷を遂げた経緯を跡づけた。この成果の内、初期のコンディヤックにかかわる部分は、論文「初期コンディヤックにおける人間精神の高次の機能の素描-『人間知識起源論』の出版後間もない改訂に関連して-」(名古屋大学大学院国際言語文化研究科『言語文化論集』第XXXV巻第1号、pp.3-31)として公表した。次いで、コンディヤックが知性の発展には記号の働きが重要な役割を果たすと考えていたことから、彼の記号論の特質についての研究に着手し、継続した。 他方、ボネについても、感覚論思想の展開を跡づける作業を開始した。なお、研究に当たっては、現代哲学を代表するデリダを含む現代の諸研究を参考にし、感覚論哲学を現代の視点から捉え返すことも試みた。 平成25年度には、ジュネーヴ、グルノーブル、パリで調査研究を行った。ジュネーヴ公立図書館では、ボネの『魂の諸能力の分析試論』の出版前の手写本を閲覧し、この著作の内容がどのように練り上げられたかを追跡した。パリの国立図書館では、前年度に続いて、コンディヤックが自己の諸著作の刊本の余白に注記を加えたものを閲覧し、彼の思想の変遷の実態を探った。また、コンディヤックの『人間知識起源論』の、版による内容の異同についてグルノーブル大学図書館で調査した。これはコンディヤックの思想の変遷が一般に受容されたあり方を知る上で有益であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は、コンディヤックとボネ双方の思想の分析・検討を進め、双方の思想の比較作業にも入る予定であった。実際、コンディヤックの側では、感覚論関係の著作である『人間知識起源論』、『感覚論』、『考える技術』などの著作の検討を、特に記号の問題を中心にすえて行った。ボネの側でも、感覚論関係の著作である『心理学論考』と『魂の諸能力の分析試論』における思想の展開を、両著作の間での概念の異同にも注意を払いつつ再確認する作業を開始した。しかしながら、双方の思想の分析・検討に予想以上に時間を取られ、双方の思想の比較の作業は十分な進展を見たとは言えない。この点で、研究全体の現在までの達成度は予定よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
コンディヤックの感覚論関係の著作である『人間知識起源論』、『感覚論』と、ボネの同様の著作である『心理学論考』、『精神能力分析論』との比較の作業を実際に進める。内容的比較とともに、ボネが残した『自伝』などを資料に、相互の具体的な影響関係についても調査検討する。 感覚論は、感覚から知性が発生すると見なす点に特質があるが、この発生の過程の分析を内容的な中心に据えて比較研究を進める。この分析に関して、コンディヤックは記号の働きが重要な役割を果たすと考える。一方、博物学者でもあったボネは生理学的視点を取り入れ、脳の神経繊維が網状組織を形成すると想定した。このように両者の探求の特徴を明らかにしつつ比較研究を進める。感覚、感情、知性とそれらの関係が、両者によってどのように分析されているかにも注目する。以上の検討に際しては、現代の研究者の考察も十分に取り入れる予定である。資料としては、基本的に、すでに入手済みの各著作の刊本を利用する。両者の具体的な関係についても、ボネが残した自伝などを利用して検討する。 なお、平成26年度は、平成26年9月と平成27年3月の2度、調査研究旅行を予定している。9月にはフランスのエクス=マルセイユ大学の招へい研究員として、研究成果を発表し、また南フランスの18世紀研究者たちと意見交換をする予定である。また、3月にはジュネーヴを訪れ、ジュネーヴ公立図書館に収蔵されているボネの草稿類、著作の原稿など、今だ研究が進んでいない資料を閲読し、本研究に活用する予定である。
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