2013 Fiscal Year Research-status Report
精神分析と左翼思想―その接近と断絶をめぐる思想史的研究
Project/Area Number |
24520086
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
立木 康介 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (70314250)
|
Keywords | 精神分析 / 左翼思想 / 毛沢東主義 / プチブルジョワジー / ラカン派 / 国際精神分析協会 / 秘密委員会 / 精神医学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1920年代から今日に至る、精神分析と左翼思想のあいだの接近と断絶のプロセスを、歴史的・社会的・思想的文脈から再検討・再構築することである。 平成25年度には、主に、①マルクスとマルクシズムにたいするジャック・ラカンの態度の批判的吟味と評価、②ラカン派(精神分析学派としての)に吸収された左翼知識人の行動とその軌跡の調査、③左翼思想家(アルチュセール、ドゥルーズ&ガタリ、デリダ、バディウ、ジジェク)がラカンから受けた影響、および彼らがラカンに向けた批判の検討、④アメリカにおける精神分析の医学化の射程と意義の分析―という四つのサブテーマについて研究を進めた。①~③については平成25年9月のフランス出張において、また④については平成26年3月のアメリカ出張において、調査と資料収集を行った。①および③にかんしては、さらに、これらの問題にかかわる当代随一の著作を発表したフランスの精神分析家ピエール・ブリュノを講演に招き、研究者コミュニティーとの交流もはかりつつ、情報と見解の教示を受けた。 その結果、現在までのところ、a/左翼思想家(マルクス主義哲学者)からの批判にたいするラカン派精神分析の応答は、1960年代から今日に至るまで、十分になされてこなかったこと、b/これらの批判には、しかし、共通の、精神分析とは本質的に相容れない考え方が見られ、それは「主体の分裂」の否定と「主体の分断」の肯定の形をとること、c/アメリカにおける精神分析の医学化は、1930年代から60年代前半までの当地での精神分析の繁栄と、その後の精神分析の衰退(医学における精神分析の地位低下が精神分析の社会的ポピュラリティの低下に直結した)をもたらしたと考えられるが、後者の徴候はすでに1950年代に顕れていること、が明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に引き続き、25年度にも調査、資料収集、資料解析といった基本作業が円滑に進められた。また、やはり前年度同様、本研究の成果の一部をタイムリーに公表できる機会にも恵まれた。 一方、前年度に日程調整の不調から資料調査に赴くことができなかったベルリン・フンボルト大学の精神医学史研究所には、平成25年度にも訪れることができなかった。十分な滞在日数のとれる出張が計画できなかったためである。 しかし、前年度より開始したアメリカにおける資料調査は、今年度も継続して行うことができた。ニューヨーク精神分析協会のアーカイヴおよび議会図書館に収蔵されている資料から、今年度は、戦間期のヨーロッパ(ベルリン、ウィーン)における精神分析の社会的受容の実像をうかがい知ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は基本的に文献研究であるため、最終年度の推進方法もこれまでと変わらない。調査・収集した資料および文献の解読、整理、データベース化を中心に進め、同時に、研究内容に肉付けを行っていく。また、全体をまとめる作業を開始し、研究成果の本格的な公表に向かいたい。成果出版のための具体的なプロジェクトをすでに出版社とのあいだで開始しており、当面はまずフランス精神分析史についての著作のなかで、本研究の成果を大いに活用・提示することに集中したい。次いで、本研究の残りの柱(戦間期ベルリンにおける精神分析と社会主義思想の接合と乖離、アメリカにおける精神分析の医学化とその帰結)を主題化する予定である。 また、前欄記載のアメリカでの資料調査を最終年度も継続し、本邦未公開の資料群を可能なかぎり多く日本に移植する(コピーやトランスクリプションを研究資源として持ち帰る)努力をしたい。
|
Research Products
(3 results)