2012 Fiscal Year Research-status Report
ガンディーの国家観:ヒンドゥーとムスリムの融和を基軸として
Project/Area Number |
24520089
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
石井 一也 香川大学, 法学部, 教授 (70294741)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ガンディー / ヒンドゥー / ムスリム / コミュナリズム / セキュラリズム / ジンナー |
Research Abstract |
研究の第一年度は、平成24年8月から9月にかけて合衆国スタンフォード大学に客員研究員として赴任し、また平成25年2月にインド国立ガンディー博物館その他において若干の資料収集を行なった。この間に得られた知見のうち、特筆すべきは次の点である。すなわち、アイーシャ・ジャラールは、ムスリム連盟によるラホール決議が、連邦内でのヒンドゥーによる多数派支配を回避するための「交渉のカード」にすぎないものであったと主張した。これは、ムハンマド・アリ・ジンナーによる強硬なパキスタン樹立の要求が、インドとパキスタンの分離独立の主要な原因であったとするそれまでの歴史理解を大きく修正する見解である。このことは、ガンディーの国家観がセキュラリズムで、ジンナーのそれがコミュナリズムであるという単純な二項対立の図式で理解することを不可能にしている。ジャラールの見解は、ガンディー思想を分析する前提としてたいへん重要である。 なおこの間、上記の認識を織り込みながら、これまでのガンディー研究をまとめた著書の原稿を整理してきた。法政大学出版局から平成25年11月に『身の丈の経済論―ガンディー思想とその系譜―』と題して出版の予定である。他方、書評(石坂晋哉『現代インドの環境思想と環境運動―ガーンディー思想と〈つながりの政治〉―』)および著書の紹介文(M. K. ガーンディー『真の独立への道(ヒンド・スワラージ)』)を執筆した。 さらに、インドおよび合衆国では、幾人かのガンディー主義者たちとの知己を得ることができ有益であった。21世紀のグローバル化の時代におけるガンディー思想のあり方を考える上で、地球の様々な場所で活躍するこれらの人々の活動を具に観察する必要がある。そうした作業は、今後の研究テーマの開拓につながるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書に示した文献のうち、第一年度(平成24年度)に予定通り調達できた文献は、次のとおりである。Zaman, Niaz(2000) A Divided Legacy: The Partition in Selected Novels of India, Pakistan, and Bangladesh, Oxford University Press; Bose, Sugata and Ayesha Jalal (2004) Modern South Asia: History, Culture, Political Economy, Routledge; Aziz, K. K. (1993) Public Life in Muslim India, 1850-1947: A Compendium of Basic Information on Political, Social, Religious, Cultural, and Educational Organizations Active in Pre-partition India, Renaissance Publising House。これらについては、なお分析の余地を残してはいるが、インド社会におけるヒンドゥーとムスリムの共存と葛藤の歴史を予定通り辿りつつある。さらに、上記のジャラールの見解に到達できたことは、大きな収穫であった。これらの他に、インド・パキスタン分離独立関係の書籍を数冊入手し、既に手元にある『ガンディー全集』とともに鋭意分析を進めており、研究はおおむね順調に進展していると見なしてよいと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の第二年度に当たる平成25年度は、ヒンドゥー、ムスリム両宗派による複合的な他者意識が、イギリスの分離政策の結果として排他的民族意識へと収斂してゆく過程を辿り、ガンディーがいかにそうした流れに抵抗しようとしていたかをジンナーとの論争などを通じて検討する予定である。そのためには、研究計画に示したChakrabarty,Bidyut(2005) Communal Identity in India: Its Construction and Articulation in the Twentieth Century, Oxford University Press; Syed Ali (2002) The Demand for Partition and the British Policy, Mittal; Butalia, Urvashi(2000) The Other Side of Silence; Gov't of India (1949) Partition Proceedings, vols.1-6; All India Muslim League (1944) Jinnah-gandhi Talks, etc.; Merriam, A. H. (1984) Gandhi vs Jinnah: The Debate over the Partition of India, Minerva Associates (Publications) PVT. LTD.などを分析する必要がある。 また、第三年度に当たる平成26年度は、ガンディーの国家観を西洋近代の国家論と比較検討する予定となっている。そのためには、研究計画に示したホッブス、ロック、ルソー、モンテスキューらの諸文献を取り揃え、分析する必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究第二年度の研究課題の遂行には、第一年度と同様に必要文献の入手が必須である。このため、与えられる研究費は、主として国内外の出張旅費、および書籍の購入費として使用する予定である。
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