2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520100
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 篤 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10212226)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 19世紀フランス絵画 / ポスト・レアリスム / マネ / ファンタン=ラトゥール / 写真 / 複製 |
Research Abstract |
2012年度は2度の調査旅行を行った。第1回目(8月9日~9月8日)は、ロサンゼルスのゲッティ・センターの美術館と研究所において、19世紀の古写真や研究資料を調査し、資料収集を行った。第2回目(10月1日~6日)は、前半にパリのオルセー美術館でマネの《草上の昼食》、《エミール・ゾラの肖像》、ファンタン=ラトゥールの《読書する女性》、《ドラクロワへのオマージュ》、《バティニョール街のアトリエ》を実地調査し、絵画資料室で作品に関するデータや関連資料を収集した。後半には、グルノーブル図書館でファンタン=ラトゥールの書簡や関係資料を閲覧調査した。 帰国後、調査結果を整理した後で、マネとファンタン=ラトゥールを始めとする1860年代の「ポスト・レアリスム絵画」を分析し、次のような造形的特徴を抽出した。(1)絵画の枠取りでモチーフを部分的に切断する技法、(2)既存の多様なイメージ(特に複製イメージ)を寄せ集めて再構成する手法、(3)画中の空間を重層化する画中画や鏡や開口部の挿入、(4)絵の具の塗りの密度、筆触の痕跡の多様性に基づくマチエールの作り方。以上4つの手法や技法は、ポスト・レアリストたちが伝統的な「タブロー」の形式や条件から逸脱して、新たな特質を備えた「タブロー」を作り上げていったことを端的に示す指標である。その際に、絵画との比較を通して、イメージの環境として同時代の写真と複製イメージが果たした役割が大きいことも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、19世紀フランス絵画史で重要な位置を占める画家マネおよび同世代の前衛画家たちの画業を 、クールベ以後の絵画における新しい現実表象という観点から1860年代の「ポスト・レアリスム」の絵画と捉え 、その特質を調査研究することにある。取り上げる画家はマネ以外に、アンリ・ファンタン=ラトゥール、アルフォンス・ルグロ、ジェイムズ・ホイ ッスラー、エドガー・ドガである。 1年目の調査によって、予定通りマネとファンタン=ラトゥールの作品と資料をパリとグルノーブルで調査することができた。彼らを取り巻くイメージの環境(美術全集、美術雑誌、版画、写真)の調査に関しては、とりわけ同時代写真についてゲッテイで詳細に調査できたことは重要な成果であった。そうした結果を受けて、新たなレアリスムを模索する画家たちが、絵画の枠組みの意識化、イメージのアッサンブラージュ、画中画や鏡の挿入、平面的な画面構成など、多様な手法を用いて「現実」表象に取り組んだことを分析できたことは大きな成果であった。その結果、伝統的な「タブロー」を崩壊に導いた西洋近代絵画史の変革期の様相を解明し、新たな歴史的位置づけを行うための契機になるからである。したがって、課題は残るものの、おおむね順調な調査研究を行ったと考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の研究成果を踏まえて、2年目の研究方針を決めなければならない。「ポスト・レアリスム」世代の画家たちの作品調査としては、マネとファンタン=ラトゥールの後を受けて、平成25年度はルグロとホイッスラーを対象とする。彼らの作品は主にフランス、イギリス、アメリカの美術館に分散しているので、3年目も視野に入れながら効率的に調査するよう計画を立てたい。作品の批評記事の収集もしなければならない。 1860年代のイメージ環境調査に関しては、同時代の写真に加えて、複製版画も探索する。日本で参照できる19世紀当時の美術全集、美術雑誌も検証した上で、パリの国立図書館において当時の複製版画とその他の画像資料を集中的に調べることになろう。また、図像のみならず、複製イメージ(版画や写真)に言及した文献資料についても、絵画との関連性に重点をおきつつ調べなくてはならない。 造形分析という観点からは、新たなレアリスム絵画を模索する画家たちが、絵画の自由な枠取り、既存イメージのアッサンブラージュ、画中画や鏡や開口部の挿入、平面性を意識した画面構成などを通して「現実」の表象、再構成に取り組んだことはほぼわかっている。その姿勢、方向性が、どの程度の範囲の画家たちに共有されていたのか、ポスト・レアリストたちに特徴的な手法、技法かどうかについても検証していきたい。その際に、新たな課題としてジャポニスム(日本美術の影響)という視点が浮上している。この問題についても考察に加えることが本研究にとって必須となりそうである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、1回目の調査旅行においてパリのフランス国立図書館で、1850年代末から1860年 代半ばのサロン(官展)の批評記事を調査する。サロン批評のなかで、「ポスト・レアリスト」たちの作品に言及している記事を洗い出し、その評価の実態を探っていく。さらに、ルグロの作品調査をパリ(《加辱刑》《十字架磔刑像》)、ディジョン(《エクス・ウォト》)、アランソン(《聖フラン チェスコの召命》)の美術館で行い、関連資料を収集する。 2回目の調査旅行はアメリカで、ワシントンのフリーア・ギャラリー(《緑色とバラ色のハーモニー:音楽室》、《磁器の国の姫君》)とナショナル・ギャラリー(《紫色と金色の奇想曲:金屏風》)におけるホイッスラーの作品が主な対象となる。後者にはマネの重要作品もあるので実見したい。さらに余裕があれば、ニューヨークのメトロポリタン美術館でドガの作品を調査し、画中画の挿入に関して観察したい。 前年度と同じく、調査旅行で収集した資料を日本で整理し、分析する。サロン批評の調査結果も踏まえながら、ルグロとホイッスラーの造形手法に関して研究し、マネやファンタン=ラトゥールの場合と比較検討する。空間表現や人工性、画中画とジャポニスム、コラージュやアッサンブラージュなどの視点から検証することになろう。ホイッスラーには先行研究が多いが、ルグロは先行研究の少ない画家なので、慎重な取り扱いが必要となる。また、必要に応じて、19世紀当時の文献資料や最新の研究文献も購入する予定である。
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Research Products
(5 results)