2014 Fiscal Year Research-status Report
19世紀セーヴル国立磁器製作所における技術開発と東洋陶磁
Project/Area Number |
24520105
|
Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
今井 祐子 福井大学, 教育地域科学部, 准教授 (00377467)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 美術史 / 陶磁史 / フランス文化史 / ジャポニスム / 日仏文化交流史 / 国際情報交換(フランス) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、前年度までの調査で入手した文献資料を読み込むとともに、フランスにおいて下記の調査を行った。その結果、下記の知見を得ることができた。 【調査内容】 1)フランス国立図書館にて、18・19世紀のセーヴル製作所に関する文献資料の収集。 2)リモージュ市立古文書館にて、19世紀後半のセーヴル製作所の活動に関するリモージュ窯業界の反応を知るための文献資料の収集。 3)アドリアン・デュブシェ美術館 (リモージュ)を訪れ、本研究に関連のある作品を実見する。 【得られた知見】 現在、セーヴル陶磁美術館には5万点以上の陶磁作品が収蔵されているが、その内の約5千点は中国磁器であり、これは同館所蔵のセーヴル磁器の数に匹敵する。これらの中国磁器の殆どは1910年以前に入手され、その大半は18・19世紀の作品(=清朝磁器)である。19世紀のセーヴル製作所では中国磁器の化学的組成や装飾技法に関する研究が鋭意進められ、中国磁器に倣った偽青磁釉、パット=シュール=パット装飾、多様な色釉、新硬質磁器素地が開発される。その成果を用いた19世紀中葉以降のセーヴルの作品は、技術と芸術性の双方において賞賛を受け、ヨーロッパの他の磁器に影響を与える。19世紀後半のフランスでは日本趣味が流行するが、素朴さや偶発美を志向する日本陶芸はセーヴルの職人には好まれず、同時期のセーヴルは日本よりも中国の磁器から影響を受けている。リモージュの私企業が機械を導入して日本趣味の製品を量産する中で、国立機関であるセーヴル製作所は機械の導入に慎重な姿勢をとり、職人や芸術家の才能を頼りに陶磁特有の技法や装飾表現を駆使して高い芸術性を備えた作品の製作を志向するという独自性を誇っていた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IS関連のテロに起因する用務先の治安悪化のため、年度内に予定されていた2回の海外調査のうち1回を実施しなかった。このため、当初予定していた万博出品作品の詳細に関する確認作業が実現せず、執筆中の論文を完成させ、投稿するには至らなかった。しかしながら、当初予定していた本研究で明らかにする内容については順調に知見が蓄積されており、研究成果の一部を、本研究と接点のある企画展覧会の一環で行われた講演会(於:岐阜県現代陶芸美術館)で発表することができた。また、これまでの調査・研究から、本研究の結論に結びつく考察も一貫性のある形で進めることができている。したがって、総体的には「おおむね順調に進展している」と判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた成果を、口頭発表および論文で公表したい。しかし、研究成果をまとめるとかなりの分量になるため、可能であれば、著書として公表することも検討している。次年度以降は、これまでの文献資料調査で得られた知見を作品に即して確認するため、主に磁器作品の調査を行う。その際の指針は以下の通り。 1)壺に重点を置いた作品調査 (理由: セーヴル磁器の作品数は膨大だが、器種の点から見ると、19世紀前半の各種展覧会に 出品された作品に占める壺の割合は3割前後であるのに対し、19世紀後半では5割を超える。そのため、19世紀後半のセーヴルの 主力作品は壺であったと考えられるため。) 2)1850‐1880年代の作品に盛んに使用された装飾技法(パット=シュール=パット)における素地の色と泥漿の色に関する調査 (理由: 文献調査から、19世紀後半の各種展覧会へ出品された作品のうちパット=シュール=パットが施された壺の地色は、 鼠、黄、象牙色、褐色、薔薇色、青磁色、青、緑、青緑、黒、白であり、泥漿は白のみならず有色泥漿も好んで使用されてい たことが分かった。だが、これらの色調の違いやそれが作風に及ぼす効果は、文字情報では十分に把握できないため。) 3)1890年代以降の作品に盛んに使用された各種高火度焼成釉薬(銅紅釉・結晶釉・マット釉)の種類と特徴に関する調査 (理由: 19世紀末のヨーロッパで一世を風靡したアール・ヌーヴォー陶磁に影響を与えたセーヴル製作所の役割を釉薬研究の 観点からより詳しく認識するため。)
|
Causes of Carryover |
当初予定していた2回の海外調査(8月、2月)のうちの1回(2月)を実施せず、また論文を投稿しなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に実施する海外調査の旅費、および投稿論文の欧文校閲、印刷費に組み込む。
|