2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520109
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 瑞穂 大阪大学, 総合学術博物館, 招へい准教授 (70613892)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 具体美術協会 / 吉原治良 / 戦後日本美術 / 前衛 / 海外戦略 / 海外との交流 |
Research Abstract |
具体美術協会(略称:具体、1954-1972年)のリーダーであった吉原治良(1905-1972年)が、いかに海外の美術関係者と交流し、具体の活動を海外へと展開したか、その具体的過程と戦略を解明するために、次の点に着目して研究を進めた。 1、大阪大学総合学術博物館の具体関連寄託資料整理(1)国内外の美術関係者と交わされた書簡(2)具体の活動拠点となったグタイピナコテカ関連資料 2、海外に保管されている具体関連資料の調査 3、元具体会員への聞き取り調査 1については、(1)は全体量の約三分の一を年代順に整理、(2)は未整理の状態であった資料総体からほぼすべての当該資料を確認し、記録撮影してデータベースを作成した。2については、ゲッティ・リサーチ・インスティテュートに所蔵されているアラン・カプロー旧蔵資料を調査し、具体がカプローに送付した初期活動に関する記録写真の全容を確認した。またカプローの1966年の著書に掲載された具体に関するテクストの初期段階の原稿も確認できた。さらに当初は予定していなかったが、ニューヨーク近代美術館のアーカイヴでも、具体関連資料を調査する機会を得た。3については、グタイピナコテカ設立の1962年前後に在籍していた主要会員である2名に加えて、具体の活動に1950年代終わりから関わり、1960年代半ばに会員となった作家1名、そして元具体会員と親交の深かった評論家1名に、グタイピナコテカについて聞き取り調査を行なうことができ、より幅広い視点に基づく証言を得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大阪大学総合学術博物館の具体関連寄託資料整理のち書簡については、当初計画したようにデータベース化が進んでいないものの、平成25年度に予定していたグタイピナコテカ関連資料の整理については、書簡と並行して前倒しで実施したところ、すべてに目を通すことができ、記録撮影とデータベース化をほぼ終えた。それらは、展覧会や書籍等では紹介されたことがほとんどなく全容が知られていないため、今後グタイピナコテカ研究の基礎になるだろう。 海外での具体関連資料調査では、予定していたゲッティ・リサーチ・インスティテュートで、アラン・カプロー旧蔵資料のうち具体から送付された資料を確認し、詳細を把握できたことに加え、幸運にもニューヨーク近代美術館のアーカイヴでウイリアム・S・リーバーマン関連の資料を調査する機会を得た。リーバーマンは、1964年にグタイピナコテカで具体会員の作品を調査し、翌年の「日本の新しい絵画と彫刻」展で会員数名の作品を取り上げたニューヨーク近代美術館キュレーターで、日本滞在時の調査資料や書簡などを実見できた。 そして元具体会員への聞き取りでは、当初予定していた元具体会員の向井修二氏、平成25年度に予定していたが前倒しで実施することになった前川強氏の他にも、1950年代終わりから具体美術展に出品するなど具体の活動に関わり、1960年代半ばには一時会員にもなった鍋倉武弘氏、そして元具体会員と親交の深かった評論家の高橋亨氏にグタイピナコテカについての聞き取り調査を行うことができた。グループ内外からの視点の総合を通して、より確かな実像の把握に努めることができたと考える。 以上の3点に基づく研究成果の一部は、平成24年11月25日に大阪大学中之島センターで開かれたシンポジウム「大阪のアヴァンギャルド芸術-焼け跡から万博前夜まで-」において発表された。
|
Strategy for Future Research Activity |
計画では平成26年度に、吉原の海外との交流とグタイピナコテカの活動についてリストを作成し、吉原の海外戦略をテーマとする論文の草稿をまとめる予定であったが、平成25年度早々に開かれた「オオサカがとんがっていた時代―焼け跡から万博前夜まで―」展(大阪大学総合学術博物館、4月29日~7月6日)で、平成24年度中の研究成果を元にグタイピナコテカの活動を大きく取り上げ、その意義を広く一般に問うことができた。本展にあわせて作成した展示作品・資料の解説およびグタイピナコテカの活動年表は、展覧会関連書籍である大阪大学総合学術博物館叢書9『戦後大阪のアヴァンギャルド芸術』(大阪大学出版会、平成25年6月発行予定)おいて、さらにまとまったかたちで収録され、グタイピナコテカに関する論考も合わせて発表される予定である。今後はそれを新たな出発点にしてさらに調査を続け、当該研究課題を充実させて行きたい。 具体的には、平成24年度には進んでいなかった書簡の整理を、大阪大学大学院文学研究科学生らの協力を得て重点的に実施し、データベース化のための基礎的作業に取り組んで行く。そして海外での資料調査は、ニューヨークのマーサ・ジャクソン画廊関連資料、パリのスタドラー画廊の関連資料を対象にして、それぞれの資料所蔵先との日程調整の上、調査時期を確定する。また聞き取り調査は、平成24年度に予定していた元会員のうち、パリ在住のため日程の都合上実施できなかった松谷武判氏と、平成26年度に予定している堀尾貞治氏を中心に行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に当該研究を行った中で、海外調査に要する日米間の渡航費が、調査を予定していた時期にちょうどアメリカで、他の招聘事業が発生したことにより必要なくなったため、当初見込額と執行額が若干異なる結果になった。しかし研究計画そのものに変更はなく、24度に未使用となった研究費も含め、当初予定どおり計画を進めて行きたい。特に書簡の整理をいっそう進めるために、学生らの協力者の人数もしくは時間数を増やす予定である。
|