2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520113
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kanazawa College of Art |
Principal Investigator |
水野 さや 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (10384695)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中国遼寧省 / 遼塔 / 仏塔 / 仏頂尊勝陀羅尼 |
Research Abstract |
朝陽北塔は遼寧省朝陽市老城区に位置する。朝陽地区は、古くは燕の都が置かれた場所であり、隋・唐代には東北経営の拠点として、高句麗・渤海遺民の幽閉地とされた。遼代においても東京地区の中心地として、重要な拠点であり続けた。また、朝陽北塔は、1980年代の発掘調査により、創建からの沿革が明らかとなり、遼代重修の目的(来るべき末法への備え)も明確である。 朝陽北塔に関する従来の見解は、塔身第一層に四仏をあらわすことから金剛界立体曼荼羅と理解され、同じく八大霊塔をあらわすことから舎利荘厳・舎利信仰の側面において語られてきた。しかし、それのみならず、次のような可能性が提示したい。すなわち、塔身第一層の浮彫モティーフをあらためて確認することにより、背後に遼宗室およびこの地に居住する漢民族・渤海遺民双方からみた(五台山信仰を集約した)仏頂尊勝陀羅尼信仰があり、その具現化(造形化)にあたり、『大乗本生心地観経』を用いることで両者の側面を融合させながら、最終的に末法への備えを強調することで一致・統合された可能性である。 遼の仏教美術については、戦前における活発な研究に対して今日ではやや停滞し、大きな成果が上げられているとは言い難い。それは、遼の支配体制、すなわち、契丹民族独自の風習・体制により支配する直轄地である中京・上京地区と、漢民族の居留地であり漢化体制をとる南京地区、同じく漢民族・渤海遺民による東京地区など、各地域の民族的伝統の有無・相違を考慮せず、一律に編年しようとする姿勢に起因するものと考える。まずは各地域ごとに代表的な仏塔を考察したうえで遼代全体の仏塔信仰の方向性をまとめ、遼を受け継ぐ金代の仏塔へとつなげていきたい。そのような研究計画において、第一に東京地区を代表する朝陽北塔の遼代重修時における背景をうかがえたことは、今後につながる成果と思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「遼・金・高麗における仏塔の浮彫荘厳に関する研究」と題する本研究において、まずは遼代を代表する朝陽北塔について考察に及ぶことができ、遼代重修期におけるその目的を仏塔の浮彫モティーフから再考察することができたことは、遼を受け継ぐ金の仏塔を考える際に一つの指針となる。また、遼塔に五台山信仰(仏頂尊勝陀羅尼信仰)が含まれていることが明らになったことは、同じく五台山信仰を取り入れている高麗の仏塔を考察する上で、大いに参考となるものであった。実地調査においては、本年度は中国内モンゴル自治区および遼寧省の実地調査を行い、中京大塔などの主な仏塔の調査を済ませている。 以上、当初の計画に照らし合わせ、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、中国山西省および北京市の遼・金塔についての実地調査を行う予定である。遼代、山西省大同市は西都地区の中心地域として、北京市は南京地区の中心地域として、重要な位置づけにあった。そのため、遼塔が多く報告されており、遼・金代に遡る古建築も多く現存する。また、現在の北京は金代の都でもあったことから、金代の仏塔、ないし遼創建金重修の仏塔が数多く残されている。この二地域における仏塔を荘厳する浮彫尊像をまとめ、五台山信仰による新たな舎利信仰が、どのような尊像構成・尊像選択として表現されたかについて、具体的に考察におよぶ予定である。また、国内では東京大学および東洋文化研究所に所蔵される中国東北部関連資料の調査を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、直接経費1,300,000円のうち、国内調査の旅費として40,000円、国外調査旅費として840,000円を使用する予定である。海外調査においては、現地協力者への謝礼(現地博物館・遺跡、文物考古研究所関係者の調査協力の謝礼)が不可欠であり、あわせて、国内の関連研究者への謝礼(専門知識の提供)として、計150,000円を用意する。また、北京地区の古建築関連図書、山西省の遼・金代の建築に関する書籍を、計270,000円購入予定である。
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Research Products
(3 results)