2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520113
|
Research Institution | Kanazawa College of Art |
Principal Investigator |
水野 さや 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (10384695)
|
Keywords | 天寧寺塔 / 遼 / 金 / 僧塔 / 仏頂尊勝陀羅尼 / 北京市 |
Research Abstract |
本年度は、中国北京市・天津市・河北省における遼・金代の仏塔および関係する仏教遺跡、美術館・博物館の調査を遂行した。本年度の研究成果は、北京市宣武区に位置する天寧寺塔について、現状における浮彫尊像の制作年代と造営背景の一端を明らかにしたことである。北京天寧寺塔の建立年代については、遼から金代にかけて、これまでに意見が提示されてきた。1991年に塔の修理時に発見された『大遼燕京天王寺建舎利塔記』により、遼代建立が決定的となったが、北京市とその周辺の遼代仏塔には、天寧寺塔のような塔身部第一層に浮彫尊像を多数あらわす例があまりないため、現状の状態すべてを遼代のものとするには違和感はぬぐえない。 そこで、同地域の遼・金代の仏塔・僧塔の調査におよび、まずは地域的特徴を明らかにした上で、その成果もとに天寧寺塔の再考を行った。その結果、明らかにした天寧寺塔の沿革は次の通りである。 遼の天慶十年(1120)、仏舎利、仏頂尊勝陀羅尼の効力による護国、国難の回避を目的に建立されたが、この時点において第一層塔身の浮彫尊像は施されていなかった。次に、貞元元年(1153)の金の燕京遷都により、天寧寺が金の中都城内の中心部付近に位置する主要な寺院となったことで、大定二十一年(1181)の世宗の代に重修された。この時、もともと彫刻がなかった塔身部の表面に尊像が追加された。その背景には、契丹人・漢人・渤海人など、支配下にある諸民族の懐柔の意図があり、そのため、漢民族の唐代以来の伝統的な塔モティーフ、遼寧の遼塔の要素を融合させたものとなったと推測する。現状の天寧寺塔は、さらに明代に大々的な表面の補修を受け、清および現代の修理も受けながら保たれてきた塔といえるであろう。 このように、遼代・金代を通して重要な一地域である北京市周辺の仏塔・僧塔に関する調査・研究は、今後につながる成果と思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「遼・金・高麗における仏塔の浮彫荘厳に関する研究」と題する本研究において、前年度の朝陽北塔に続き、本年度は遼代の南京、金代の中都における代表的な仏塔について考察におよぶことができた。特に北京市の天寧寺塔について、遼代創建・金代重修期における目的を浮彫尊像から再考察することができたことは、重要な成果と思われる。また、北京市およびその周辺地域における仏塔の塔身部第一層に、東京地区(遼寧省朝陽市)および中京地区・上京地区(内蒙古自治区赤峰市寧城県・巴林左旗)とは異なる特徴が見いだされたことも、地域における仏塔信仰・建立目的の違いが浮かび上がり、大いに参考になるものであった。 以上、当初の計画に照らし合わせ、おおむね順調に進展していると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、韓国における高麗時代の仏塔について実地調査を行う予定である。本研究者はかつて「韓国の浮彫形態の集合尊像(四仏・五大明王・四天王・八部衆)に関する総合調査」(科研費(基盤研究(B)(1)海外学術研究、研究代表者:武蔵野美術大学・朴亨國)に研究分担者として参加しており、その際の研究協力体制も維持されている。このように、高麗時代の仏塔については、同研究の際の成果の一部を活かし、各方面の協力を得て、確実に行っていく予定である。 また、遼・金と高麗とを結ぶ重要な地域である遼寧省西部の遼塔・金塔についても、調査におよぶ必要があると考えている。しかし、同地域は日中両国の近代政治史上デリケートな地域でもあるため、夏場の実地調査が円滑に行えない可能性もある。遼寧省文物考古研究所に協力を依頼し、調査遂行のため万全を図ったうえで、可能であれば実地調査を行いたい。
|
Research Products
(4 results)