2012 Fiscal Year Research-status Report
日本の祖師・高僧像の総合的研究-制作目的と意義からの新たな解釈-
Project/Area Number |
24520117
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小野 佳代 早稲田大学, 総合研究機構, 准教授 (60386563)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 祖師像 / 高僧像 / 羅漢像 / 鑑真和上 / 行信僧都 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本の祖師像・高僧像などの僧形像を取り上げ、旧来の「時代」「様式」「宗派」による分類法ではなく、僧形像が制作された「目的」「意味」「役割」によって分類し直すことによって、日本における祖師・高僧像制作の実態や本質を解明することである。 初年度の平成24年度は、「日本における僧形像制作・黎明期の研究」に取り組んだ。まず、奈良時代の法隆寺、大安寺、西大寺、東大寺、興福寺の資財帳等を検討したところ、奈良時代の僧形像は、釈迦の事績を語る場面のほか、釈迦の霊鷲山浄土、阿弥陀の極楽浄土、薬師の瑠璃光浄土、さらに弥勒の兜率天浄土から下生後の弥勒の説法の場面に至るまで、実に様々な場面にあらわされていた。しかしどの場面の僧形像であれ、それらは釈迦の十大弟子などの“羅漢像”であったのは注目される。また大安寺と興福寺食堂院には「聖僧」の像が安置されていたが、この時期の聖僧とは賓頭盧尊者のことであろうから、詰まるところ、奈良時代の資財帳から見えてくる南都諸寺の僧形像とは、いずれも羅漢像に集約できるのである。つまり奈良時代の南都諸寺では、経典や経論の類でしか知りえない、また誰一人として面識のない羅漢たちの像を祀ってきたということなのである。ところが、天平宝字七年(763)、中国の風習によって鑑真和上像が唐招提寺において造顕されたことによって、わが国の僧形像の歴史が大きく変化していくことになった。これまでの羅漢像から、同時代の実在の人物の肖像制作へと動き出すことになったのである。鑑真像の出現が、さらに法隆寺夢殿の行信像へとつながり、それがさらには興福寺南円堂の善珠・玄賓像へと連鎖し、奈良時代の終わりから平安時代にかけて、南都諸寺に肖像制作の機運が一期に広まっていったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は予定どおり「日本における僧形像制作・黎明期の研究」に着手した。まず、奈良時代の南都諸寺の資財帳等の記録をもとに僧形像の安置状況を調べたところ、奈良時代の南都諸寺の各堂塔に安置された僧形像とはことごとく「羅漢像」であったことが明らかとなった。その後、8世紀後半に、唐招提寺において実在の人物である鑑真和上の肖像が造立されたことによって、日本における僧形像制作の機運は、羅漢像から高僧像へとシフトしていった。日本における鑑真像造立の意義の大きさと、造立以後、鑑真像が唐招提寺においていかに重要な像であり続けたかを考察した。さらに、鑑真像につづく法隆寺夢殿の行信僧都坐像にいては、造立目的や意義について未だ不明な点が多かったことから、改めて考察を加えた。平成24年度は当初の計画どおり、日本における僧形像制作・黎明期の研究を遂行できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究で、奈良時代の僧形像制作の状況がほぼつかめたので、今後は奈良時代から平安時代に至る祖師・高僧像(僧侶の肖像彫刻)に着目し、各像の制作目的を探っていきたい。また肖像彫刻は、制作されてから時間が経つにつれて、他の意義や役割を担わされることも少なくないため、この点についても考察していきたい。さらに、祖師・高僧像を制作する際、必ずしも没した年齢の顔かたちにあらわされるわけではない。高僧の顔における「老」「壮」「若」の問題、そして仏教における老人観についても併せて追及していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、奈良時代から平安時代に制作された祖師・高僧の現存作例を取り上げ、制作目的や意義のほか、祖師・高僧像が寺院内で果たした役割等を中心に考察する予定である。作例の調査対象としては下記のものを予定している。岡寺の義淵僧正坐像をはじめ、法隆寺夢殿道詮律師像、園城寺智証大師円珍像、立石寺慈覚大師円仁像等を調査対象として検討中である。関連文献の収集のほか、実地調査を積極的に行う。実地調査と文献史料の検討によって得られた知見をもとに、奈良・平安時代の祖師・高僧像について、制作目的・意義・役割という観点から検討していく。
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