2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520123
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
長谷 洋一 関西大学, 文学部, 教授 (60388410)
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Keywords | 近世仏師 / 仏像 / 中央と地方 / 文化交流 |
Research Abstract |
前年度に一般公開した近世仏師事績データベース(http://www.busshi.net/search.cgi)への追加入力作業を行う一方で、近世京都仏師についての動向や活動状況を理解するうえで大きな展開がみられた。 データベースに関しては、各仏像調査報告書、各都道府県、市町村史についてはほぼ入力を終了し、継続中である各種史料や注文書等、古文書にみられる仏師情報の入力作業を引き続き行った。 幕府御用を務める七条仏師について、秋田県・山形県の事例から七条仏師が、仏像製作にあっても当該地方へ直接出向いて仏像修復、仏像の安置(据付)を行うことで、地方仏師(在地仏師)との関係が生まれ、その後、在地仏師が京都仏師との関係を間接的にもちえることによってその活動を促進することが理解された。このような京都仏師の地方進出と在地仏師の活動促進は、七条仏師以外の京都仏師や江戸仏師、大阪仏師でも同様であったことが予想された。さらに七条仏師をはじめとする京都仏師の地方進出にあたっては、享保9年及び寛政11年での「大成令」によって仏像の像高、数量に関する制限が加えられ、それまでの製作中心から修復中心の事業へと変化し、そのことが地方進出へとつながることが確認できた。京都仏師が地方へ進出することで、それまでの地方での造像のあり方が大きく変化したことが確認できた。 また七条仏師の系譜に関してはこれまで『美術研究』誌上での翻刻本に頼らざるをえなかったが、翻刻本の原本を影写したものを確認し、翻刻本との異同、追記などの確認を行い、その精度を高めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近世仏師事績データベースについては構築が終り、一般公開している。追加入力作業については、既刊の全国各地の仏像調査報告書及び都道府県史、市町村史に記載された近世仏師事績は入力が終了している。修理報告書、専門雑誌に記載された事績についても入力が終了している。史料については、『覚めい記』『妙法院史料』『京羽二重大全』『相国寺史料』等の入力作業は終了した。引き続き『妙法院日次記』にみる事績の入力作業を行っているが、仏師名等の確定作業がやや遅延している。 上記データベースを用いた近世京都仏師と大坂・江戸仏師の関係では、京都七条西仏所の康音が京都に本拠地を置いて仏像製作に携わったが、次代の音湛は、江戸に移住し、関東地方で造像に携わっていたことが確認できた。また七条中仏所傍流である康英は四天王寺修復に従事して以降、大坂に本拠地を移して大坂仏師田中主水として活動、西日本各地に事績を残したことが確認できた。 地方仏師の成立展開については、事例収集に努めており、山形・長大寺大日如来像(天明6年)の作品調査から、京都仏師友学が京都で製作した後、山形へ運ばれたことが確認できたとともに仏像の据付等にも友学が山形に来訪していたことが確認できた。山形・若松寺観音堂の観音立像の光背銘には「京師友学門人山形住大仏工 原田忠左衛門治道」とあって、山形仏師である原田忠左衛門治道が「友学門人」と称していることから、友学の山形来訪が山形仏師の誕生を促進したとみられる。同様の点は、岩手・一関周辺で造像活動を展開した友慶も、京都仏師友学との関係が、認められた。 近世地方(在地)仏師の成立は、京都仏師の地方進出によって成立したとみられる。近世大坂仏師、江戸仏師と地方(在地)仏師の関係については近世京都仏師での具体的な事例を得たうえで改めて考察することにしたいが、研究計画全体としてはおおむね順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、作品、史料ともに豊富に残る近世京都仏師の事績から京都仏師の全国的展開、特に享保9年、寛政11年の仏像制限令を画期とする京都仏師の地方進出についてデータベースを用いて具体的な活動状況を把握していく。先の仏像制限令によって仏像製作も小像の製作や修復事業にシフトし、結果的に近世での京都、大坂、江戸の各仏師の総数が減少し、特定の仏師に集中していく。『京羽二重大全』掲載の仏師名からは減少傾向が読み取れるが、この点を各地に残る事績をもとに確認していく。また同時に近世大坂仏師、江戸仏師の活動状況を把握し、地方(在地仏師)の成立展開も考慮しながら考察していく。 淡路には元禄年間の宮内法橋や宝暦年間の藤村隆水の事績が数多く残る。いっぽう淡路の地方(在地)仏師である藤原源右衛門や伊與源右衛門義索の事績は阿波(徳島)に集中している。また同時期の阿波仏師である光慶の事績は高知県の東部に集中している。近世京都仏師の地方進出は地方(在地)仏師の動向にも大きく影響しているとみられる。こうした京都・大坂・江戸仏師と地方(在地)仏師との関係、地方(在地)仏師間での活動圏の侵食などを解明していく。 以上の研究成果を整理しながら、仏師動向からみた近世彫刻史の様相を全国にわたって確認し、その全貌を提示していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
購入を計画していた書籍が品切のために入手出来なかったため。 古書等による書籍購入を検討し、改めて書籍購入に充てんする。
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Research Products
(2 results)