2013 Fiscal Year Research-status Report
中世・近世日本絵画における白色顔料の利用に関する科学的調査研究
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24520125
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
Principal Investigator |
早川 泰弘 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 分析科学研究室長 (20290869)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
城野 誠冶 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 企画情報部, 専門職員 (70470028)
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Keywords | 彩色材料 / 白色絵具 / 蛍光X線分析 / 日本画 |
Research Abstract |
日本絵画に使われる彩色材料の中で、白色顔料は古代から中世にかけては鉛白が中心だが、近世の絵画では胡粉が主として使われている。そこで本研究では、白色顔料の転換点に近いと考えられている室町期から江戸期の日本絵画を中心に、彩色材料に関する非破壊・非接触の科学調査を実施し、用いられている白色顔料の種類とその利用方法を明らかにすることが目的である。 平成25年度は、まず参考作品として、鎌倉期を代表する春日権現験記絵巻(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)第八巻、第十三巻の表面と、第四巻、第十五巻の裏面に関する彩色材料調査を実施した。白色材料としては、図像を描くためには鉛白だけが用いられているが、裏面における白色の裏彩色としては白土が使われていることを明らかにした。そして、江戸期の作品調査として、二曲一双の木胎の和漢奏楽図屏風(静嘉堂文庫美術館所蔵、重要文化財)と伊藤若冲が晩年に描いたとされる菜蟲譜(佐野市立吉澤記念美術館所蔵、重要文化財)について調査を実施した。和漢奏楽図屏風については、白色材料として鉛白が使われていることが確認されたが、多くの部分に漆工で用いられる密陀絵の技法が使われている様子が見受けられ、鉛白と密陀僧という2種類の鉛系顔料が使われていることを見出した。さらに、菜蟲譜については、白色顔料として胡粉だけしか見出されず、伊藤若冲の畢生の作として知られる動植綵絵全三十幅(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)と同様の結果であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本絵画の彩色材料を科学的に調査していく中で、ある時代を境にして白色顔料が明らかに切り替わっていることが分かってきた。古い時代は鉛白が中心であるが、江戸時代の絵画にはもっぱら胡粉が使われていることが分かってきた。平成24年度から開始した本研究課題の中で、できるだけ多数の絵画作品を調査し、その転換点を明らかにすることに重点を置いて研究を進めてきたが、平成24、25年度の成果にも見られるように江戸期においても例外的に鉛白が使われている作品がいくつか見いだされてきた。研究は、当初の計画通り、順調に進展しており、副次的な研究成果も挙がりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は本研究課題の最終年度として、多くの絵画作品の調査を進めるとともに、これまでに蓄積したデータの解析を行い、それらの成果の公表を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度末に購入予定だったデータ保存用HDDを、次年度初めに購入するよう計画変更した。 今年度初めにHDDを購入予定。
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