2013 Fiscal Year Research-status Report
地方都市の復興事業におけるジャズ音楽の活用-日米地域文化の比較研究
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24520147
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
モラスキー マイク 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (80585406)
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Keywords | ジャズ音楽と街の復興 |
Research Abstract |
平成25年度では、次の市町村で現地調査を行った――北海道では札幌および釧路、岩手県の一関、花巻、釜石、大槌町そして宮古、新潟県では新潟市、石川県では金沢、関西では京都、大阪、神戸、中国地方では愛媛県今治、広島県広島市、九州では福岡県福岡市そして長崎県では佐世保、そして沖縄県那覇市。各地ではジャズ喫茶店主やジャズストリートなど町興しイベントの主催者および参加したミュージシャン、それに市役所管轄下の復興事業の担当者などを対象に聞き取り調査を行い、調査内容の整理に着手し始めた。また、新潟市と今治市のジャズストリートを見学し、各地の過去のイベントについての背景を調べ、資料収集も行った。 調査の途中ではあるが、これまでの研究結果を他の研究者に発表したく、2014年8月末に開催されるヨーロッパ日本研究学会(European Association of Japanese Studies)のために、在米国のふたりの研究者を含むパネルを提案して提出たら、選抜されたので報告者は大槌町での調査をもとに研究発表を行うことになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度に行った幅広い地域での調査が重なるにつれて、各地での調査内容を比較考察することにした。その結果、一見、同じように映るイベントと目的(たとえば、町興し事業の一端として主宰されるジャズストリート)の間でも、多様な相違点が見受けられることに気づいた。一例を挙げれば、一方では個人経営の小さなジャズ喫茶から始まった音楽イベントの企画があろ、他方では類のイベントを市役所が中心に企画した場合、資金確保能力における格差も見られ、呼びかけられるミュージシャンの知名度そして音楽的志向などにも相違点際立つ傾向が強いように思われた(その代表例は大物を呼び寄せる金沢の高齢のジャズイベント、そして地元のアマチュアミュージシャンを中心にする新潟市のジャズストリートである)。 また、大槌町や那覇などで見られるようにミュージシャン自信が開業した飲食店がある一方、演奏をしない音楽ファンの店主が営む店との間にも、様々な違いを見出すことができるようである。ただし、その比較が単なる印象論に終わらないように、さらに調査と考察を重ねなければならない。 加えて、今後の調査の大きな課題のひとつとなるのは、町の復興を一切目的としない、個性の強い人が開業するジャズ喫茶などが、復興を意識していないにもかかわらず(あるいはそれゆえに)、様々な形で町の文化活性化に確固たる貢献を果たしている、という点である。佐世保の「いーぜる」というジャズ喫茶が好例であり、店主と常連客たちが、島内のほかの中小都市のジャズファンの協力を得て、九州最大の野外ジャズフェスを立ち上げてきたことが注目に値する。この問題についてもさらなる考察が必要であり、平成26年度の調査を数カ所に絞り、この問題になるべく究明していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は調査対象地を絞り、次の問題に焦点を当てて考察を進める予定である: (1)都市部の文化的疑似体験――ジャズは「アメリカの音楽」や「アフリカンアメリカ人の音楽」という意識が日本で広く共有されているが、同時にジャズはさらに「都会の音楽」というイメージが強いため、地方都市における「ジャズ」というのは、東京など大都会の文化的疑似体験を地元客に提供するという役目もあるように思える。この役目についてさらに考察を深めていく予定である。 2)町の文化活性化における個人店の可能性と限界――これまでに諸地域で調査を重ねてきたが、とりわけジャズ音楽を中心とする地方都市の場合、いわば「個性的な」店主が圧倒的に多く、したがって店内における店主個人の存在と影響力がきわめて大きいといわなければならない。ところが、閉鎖的な共同体になりがちな店内と「店外の世界」とでは、どのように関係しているのか、これから多視点的に掘り下げていくべきだと思うようになった。換言すれば、〈個人〉・〈店〉・〈町〉はどのように関係しているのか。また、小さな店のひとりの店主が、どの程度、そして具体的にどのようにその町の文化に影響を及ぼすことができるのか。この問題をさらに掘り下げていく必要があり、26年度に集中して考えて行きたい。そのために、上記のヨーロッパ日本研究学会での発表に向けて、さらなる調査および考察を重ねていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の途中で一橋大学から早稲田大学に平成25年9月に転職したため、転職後の現地調査を予定通りに実施することができず26年度に行うことにした。 三陸での現地調査の続行、関西での調査の続行を中心に現地調査を行い、8月末のヨーロッパ日本研究学会に向けて研究報告をまとめる。また、前年度に収集した資料の読解作業の続行、今後取り組む問題のための理論的枠組みの構築に励む。
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Research Products
(1 results)