2012 Fiscal Year Research-status Report
戦時における音楽生活の変貌についての歴史的研究─第一次大戦中の慈善演奏会
Project/Area Number |
24520153
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡田 暁生 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (70243136)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 音楽史 / ドイツ / 社会 / 第一次大戦 |
Research Abstract |
戦時中のベッカーの著作はほぼすべて調査を終えている。また第一次世界大戦中のヨーロッパの音楽状況についての俯瞰を行い、各国の音楽雑誌の資料収集についても開始したところである。今後の研究の推進方策は以下の通りである。まず、ベッカーはフランクフルト新聞の専属音楽批評家であったが、彼の戦中における新聞記事を調査しなければならない。また戦中のフランスおよびイギリスの音楽雑誌記事の調査が課題である。なお一九二〇年代に入ってベッカーの思想はワイマール共和国の文化政策に大きな影響を与えたが、この問題も検討しなければならない。 また、開戦当初のベッカーは音楽の社会的参加を強く主張していたが、それに対して戦後の一九二〇年代に入ると、音楽と社会の問題は彼の思想から消え、代りにハンスリックに似たフォルマリズムがキーワードとなるようになる。「音楽は運動する遊戯」以外の何ものでもないというのが、この時代の彼が繰り返し主張するテーゼである。恐らく社会学的美学から形式美学へのこの変遷は、第一次世界大戦を通した、音楽の社会的参画の不可能性に対する幻滅の結果であったと考えられる。これらの仮説を資料分析によって裏付けることも、本年度の課題である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の独創性と意義は、①資料的な空白を埋める ②一九二〇年代の音楽を第一次世界大戦から捉えなおす ③社会的危機の中の音楽のありようを問い直す の三点にある。 1.第一次世界大戦中の慈善演奏会の氾濫については、パウル・ベッカーやグイド・アドラーやユリウス・コルンゴルトといった、同時代の著名な音楽批評家/音楽学者によって、しばしば言及されている。しかし慈善演奏会の実態についての歴史研究はまだない。戦中オーストリアの音楽プロパガンダを扱ったAlexander Perterer, Aus ernster Zeit, Wien 1991.や、二〇世紀初頭の労働者運動の中の音楽の役割を辿るReinhard Kannonier, Zwischen Beethoven und Eisler. Zur Arbeitermusikbewegung in Ӧsterreich, Wien 1981.の中で、断片的な記述があるのみである。本研究は、音楽史におけるこの「五年の空白(一九一四年~一九一八年)」を埋める、最初の試みである。
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Strategy for Future Research Activity |
戦中における慈善演奏会の問題は、一九二〇年代になって急激に勃興する「参加/行動する音楽」(アイスラーやワイルなど)の文脈においても重要である。またベッセラーのような一九二〇年代を代表する音楽学者の著作においても、「音楽への参加を通した社会統合」というモチーフがしばしば現われる。また逆に、音楽を通した社会参画を徹底的に拒絶するアドルノの美学は、こうした同時代の「動員的な音楽」への反動と見なすことが出来る。従来の音楽史研究に欠落しているのは、一九二〇年代の音楽を「それに先立つ時代=第一次世界大戦」との動的な関連の中で捉える視点である。その意味で本研究は、第一次世界大戦から一九二〇年代の音楽状況を捉える、新しい視座を提供するものである。こうした視点から一九二〇年代における慈善演奏会の意義を探るのが本年度の方向です。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究費は主として書籍資料(とりわけ一九二〇年代ドイツの雑誌)および海外調査(とくにウィーン学友楽会資料室におけるコンサートプログラムの調査)に充てられる予定である。
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