2012 Fiscal Year Research-status Report
近現代の東アジアにおける語り物音楽の演奏様式の変容に関する分析研究
Project/Area Number |
24520154
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
垣内 幸夫 京都教育大学, 教育学部, 教授 (50117420)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 芸術諸学 / 東アジア / 語り物音楽 / 義太夫節 / パンソリ / 評弾 |
Research Abstract |
平成24年5月3日に上海評弾団(上海市)を訪れ、同団所有のSPレコードについて調査した。5月4日には同団の団長・秦建国氏に対して、本研究課題「近現代の東アジアにおける語り物音楽の演奏様式の変容」に関するインタビューを行い、秦建国氏提供の古い時代の評弾演奏を解説したラジオ放送「評弾老唱片アルバム」の録音を聴きながら、現在の評弾演奏との違いについてお話を伺った。5月5日には上海市内の胡國梁氏宅を訪れ、評弾の最も古い音源に関して質問し教示を受けた。胡國梁氏は評弾に対する造詣の深い人物で、厳雪亭が創始した厳調の正統伝承者であり、『弾詞流派唱腔大典』(中国唱片上海公司出版、2004年*CD26枚)の編集者・解説書執筆者でもある。 平成24年12月24~30日に再び上海市を訪れ、上海評弾団団長・秦建国氏とともに『老唱片博覧 評弾篇(1920-1940年代珍貴録音)』(中国唱片上海公司出版、2011年CD5枚)の音源を聴き、近現代の評弾の演奏様式の変容に関するお話を伺った。上海市滞在中に上海図書館(上海市淮海中路)において、評弾の最古の録音とされる1923年前後に録音された《玉蜻蛉》《描金鳳》《白蛇伝》の3枚のSPレコードの存在を確認し、それらの音源を視聴させて頂き、現代の評弾との演奏様式の違いを直接確かめることができた。 平成25年2月27~3月4日の間、韓国ソウル市を訪れパンソリの研究者で国楽音盤博物館館長の盧載明(ノジェミョン)氏にお会いして、近現代のパンソリの演奏様式の変容に関するお話を伺った。またパンソリに関する文献資料・音源資料・映像資料・演奏会情報に関する資料収集を行った(国立国楽院・国立劇場・教保文庫他)。 研究成果の一部は「近現代の東アジアにおける語り物音楽の演奏様式の変容― 中国蘇州の評弾を事例として ―」他二編の論文と学会での三つの口頭発表において公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、近現代の東アジアにおける語り物音楽の演奏様式の変容を分析し、その音楽的諸特徴を比較することによって、義太夫節・パンソリ・評弾の伝承の実態について明らかにすることを目的とするものである。 平成24年度の調査・研究では、主に評弾の歴史的音源資料の収集と分析に重点を置いて研究を進めた。その結果、評弾の調(ティヤオ=個人様式)の伝承に関する理解を深めることができた。当初の計画では平成24年度にパンソリ、平成25年度に評弾に重点を置いて研究を進める予定であったが、実際には平成24年度において評弾の調査が大きく前進した。もとより本研究は、東アジアの語り物音楽を代表する存在である義太夫節・パンソリ・評弾の三者の比較を前提とした研究であり、この三つの芸能の調査をバランスさせながら進める必要がある。 今回の二人の評弾伝承者へのインタビュー及び歴史的音源資料の収集を含めた調査・研究の成果は、本研究推進のために特に意義のあるものとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には①中国上海において評弾の伝承者に対してインタビューを行い、近現代における演奏様式の変容についての実演と芸談を記録する(*上海評弾団団長・秦建国師他の研究協力を得る)。②韓国のパンソリ伝承者に対して聞取り調査を行い、近現代における演奏様式の変容についての実演と芸談を記録する(*全羅北道立国楽院・金美貞教授他の研究協力を得る)。③平成24年度に引き続き、パンソリ・評弾に関する歴史的音源資料・映像資料並びに文献資料の収集を行う。④収集した資料を整理し、近現代における演奏様式の変容について、文楽太夫の豊竹呂勢大夫師(*研究協力者)と共に歴史的音源資料・映像資料の分析と検討を行う。 平成26年度には①平成25年度に引き続き、韓国のパンソリに関する補足調査を行う。②平成25年度に引き続き、中国上海において評弾に関する補足調査を行う。③平成25年度に引き続き、パンソリ・評弾に関する歴史的音源資料・映像資料並びに文献資料の補足収集を行う。④平成25年度に引き続き、文楽太夫の豊竹呂勢大夫師(*研究協力者)と共に歴史的音源資料・映像資料に記録された演奏を分析し、近現代における変容に関する検討を行う。 以上が平成25年度以降の研究計画であり、義太夫節・パンソリ・評弾の三者をバランスさせながら調査・研究を推進し、比較分析を行うことでそれぞれの芸能の近現代における演奏様式の変容について考察し、伝承の実態を明らかにしていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額69,295円については、本研究の成果を発表するために参加した「第10回日中音楽比較研究国際学術会議」(平成25年3月27日~28日、於東京藝術大学音楽学部)への出張旅費並びに同国際学術会議への参加費として3月末に予算執行のための手続きを終えていたが、3月末の決算が4月にずれ込んでしまい上記の金額が次年度に残った形となってしまった。そのため、実際に平成25年度に執行できる次年度使用額は実質0円であることを最初に報告しておく。 平成25年度の研究費の使用については、本研究を推進するために是非とも必要なコンピュータ(1台)の購入と、評弾の伝承者に対するインタビュー及びパンソリ伝承者に対する聞取り調査のための調査・研究並びに資料収集のための海外出張旅費(中国・韓国各2回)と専門的知識の提供・通訳に対して支払う謝金を計画している。
|
Research Products
(7 results)