2012 Fiscal Year Research-status Report
実証分析による20世紀の交響楽団におけるレパートリー形成とその要因の国際比較研究
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24520174
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Toho College of Music |
Principal Investigator |
井上 登喜子 東邦音楽大学, 音楽学部, 准教授 (90361815)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | レパートリー / 交響楽団 / 音楽受容 / 実証分析 / データベース / 音楽学 |
Research Abstract |
当該年度は、二十世紀の日本における職業交響楽団のレパートリー形成に関するデータベースを完成させ、要因分析を行うという第1のプロジェクトを進行させた。 第一に、データベースに関しては、体系的に編纂された二次資料、小川昴編『新編日本の交響楽団演奏会記録』(1983年,1992年,2002年発行)をデータソースとし、本資料に含まれる日本の職業交響楽団23団体を検討した結果、設立年代が早く、本拠地や運営形態の様々な8団体をサンプルとし、各団体の創立時から2000年までの定期演奏会の演奏曲目データベースを構築した(定期演奏会数5,585、演奏曲目数17,319)。本データベースは、団体、演奏日時、演奏機会、演奏場所、演奏曲目、演奏者(指揮者、ソリスト等)の基礎情報を含むものであり、レパートリーの全体傾向を把握し、団体、運営形態、地域、時代ごとのレパートリー形成の差異を明らかにするのに適している。 第二に、本データベースを用いて、レパートリー形成の要因分析を行った。分析では、レパートリーにおける「くり返し演奏される作品への依存」と「新規作品の導入」を被説明変数とした。前者、上位レパートリーの集中度やレパートリーの分布全体の不均等度を示す被説明変数には、市場の集中度を測る指数「ハーフィンダール・ハーシュマン指数」を援用した。説明変数としては、演奏能力、運営形態、景気変動、文化政策、社会変化を投入し、仮説検証を行った。分析の結果、演奏能力、運営形態、文化政策の各要因は「既存のレパートリーへの集中度」を減少させ、「新規のレパートリー」の参入を促すという結果を得、レパートリー形成に影響を及ぼす要因であることを解明した。 本研究結果については、International Musicological Society国際音楽学会第19回国際会議(平成24年7月、ローマ)にて成果報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究に関し、計画では初年度に当たる平成24年度は、第1のプロジェクト、すなわち日本の職業交響楽団のデータ収集とデータベース構築、そのレパートリー形成に関する要因分析を進める予定であった。 当該年度は、日本の職業交響楽団全23団体(2000年時点)を検討した結果、代表的な8団体をサンプルとして、1927年から2000年までの定期演奏会の演奏曲目データベースを構築し、レパートリー形成の要因分析を実施した。サンプルとした8団体の定期演奏会の曲目データベースは、本研究の仮説検定に必要かつ充分な量と、サンプルとしての代表性、及び一定の多様性を備えるものとなった。分析結果については、国際音楽学会で研究報告を行い、国際専門誌への投稿準備段階に進んでおり、おおむね順調に進展していると言える。 また、当該年度は、平成25年度、平成26年度に実施する計画となっている第2のプロジェクト、すなわちレパートリー形成の要因分析の国際比較に向けて、海外の職業交響楽団の演奏会記録に関する資料調査を進めた。ヨーロッパ、米国、アジア・太平洋地域の複数の国と地域の職業交響楽団154団体を対象に、体系的な演奏会資料(紙媒体または電子データ)の編纂と公開状況に関する調査を行い、電子データを公開する団体に関しては、順次、データ収集とデータ整備を進め、試行的にデータベース構築に取り組んだ。今後、体系的な演奏会資料およびデータ取得のために、個別団体レベルでのより詳細な調査を進めることが必要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に実施した、二十世紀日本の交響楽団のレパートリー形成の関する要因分析の結果については、国際音楽学会でのコメント対応を中心に精緻化作業を進め、国際専門誌への投稿を行うことを計画している。 今後の研究では、二十世紀日本の職業交響楽団のレパートリー形成に見られた傾向や特徴が、日本に特徴的なものか、異なる国・地域にもみられる結果かを明らかにすることが課題となる。従って、西洋社会ならびに非西洋社会における西洋音楽のレパートリー形成の国際比較を行う計画である。そのため、西洋音楽を自国文化とするヨーロッパ諸国、文化的連続性の中で西洋音楽を受容した米国、異文化として西洋音楽を受容したアジア諸国という異なる地域を対象とし、レパートリー形成に影響を及ぼす要因の内、国・地域に固有の要因と、国・地域を超えたグローバルな要因を突き止めることを目標とする。 平成25年度の研究の推進方策としては、海外の職業交響楽団の内、体系的な演奏会記録の電子データを公開している複数団体を対象とし、データ収集・入力作業を集中的に進行させ、データベースの精緻化を図り、国際比較の予備的分析を進める。現段階では、平成24年度の資料調査の結果を踏まえ、ドイツ、オーストリア、米国の交響楽団をサンプルとした分析を行うことを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、代表者が自らデータ収集・入力作業を行うことで、研究費の効率的運用を行った結果、12万円の未使用額が発生した。 平成25年度は、先述のように、海外の職業交響楽団の演奏会データの収集・整理を集中的に進めるため、大学院生のアルバイトを雇用して、データのダウンロード作業およびテキストデータの入力・編集作業を行う。このための作業時間を320時間とし、32万円を人件費とする(320時間×1000円)。 前年度の分析結果に基づく論文ドラフトについて、国際学会での報告を経て、コメントへの対応を行い、学会誌への投稿を進める。そのための英文ネイティブチェックと投稿費用6万円を必要とする。 国際比較の予備的分析を進め、論文ドラフトの準備を進めるに当たり、国内及び海外の研究会や学会での報告を行うため、国内学会参加費4万円(国内出張旅費1回:4万×1名:研究代表者)、海外学会参加費20万円(海外出張旅費1回20万円×1名:研究代表者)を要する。 以上のように、平成25年度の計画遂行のため、平成24年度未使用分も含め、上記の研究費を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)