2012 Fiscal Year Research-status Report
フランス、ベルギー、カナダにおける国内・対外文化政策の再構築
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24520184
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
藤井 慎太郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10350365)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 文化政策 / 舞台芸術 / 劇場制度 / 文化外交 / 対外文化政策 / フランス / ベルギー / カナダ |
Research Abstract |
2012年度においては、まず5月に、文化政策を専門とするエマニュエル・ヴァロン教授の来日を利用して、大学に同教授を招聘し、社会党政権のもとでの文化政策の見通しに関して公開研究会の講師を依頼し、情報収集・意見交換を行った。ヨーロッパに研究出張を行い、主にベルギーとフランスの文化政策に関する書籍・報告書などの資料を入手し、演劇界の重要人物が集まるアヴィニョン演劇祭の場を利用して聞き取り調査を実施するとともに、ベルギーの国内文化政策について論文「演劇と国家 ベルギーの連邦化の過程と舞台芸術」にまとめ、所属する文学研究科紀要に発表した。論文の概要は以下の通りである。 2010年6月の連邦議会選挙を受けた新政権発足が2011年12月にまでずれ込んだほど、連邦国家ベルギー内部の言語圏の対立は深刻である。文化政策は、1970年に開始された国家ベルギーの連邦化のプロセスにおいて、いちばん最初に中央政府から共同体政府へと委譲された権限であった。そうした分権化が、フランダース、フランス語共同体それぞれに独自の芸術政策と劇場制度を発展させ、さらには全体としてきわめて複雑な制度を生み出すことにつながっていく(とりわけ経済・税収が好調であるフランダース政府は芸術家に対する支援が手厚く、国際的にも高く認められた舞台芸術家を数多く擁している)。その一方で、ブリュッセル首都地方は、地方としては独自の文化政策を展開できずに、法的にも二言語地方とされながらも、ベルギーの首都として両言語共同体の文化の共存の象徴となりえずにいる(しかし、連邦の首都であり、欧州の中心でもあるブリュッセルの帰属問題が解決できないがゆえに、両共同体も簡単には分離できない)。 「矛盾の国」とよく形容されるベルギーは日本では充分に論じられることが少ない。その複雑な文化政策の制度の概要、歴史的形成過程を示すことができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度はベルギー、フランスの文化政策に関する調査をもっぱら行い、上記のベルギーの国内文化政策に関して論文にまとめた。フランスの対外文化政策に関しては、科研費採択結果が出る以前のことではあるが、2011年度末に、伊藤裕夫・藤井慎太郎編著『芸術と環境 劇場制度・国際交流・文化政策』(論創社、総頁数312、2012年 3月)中の論文、藤井慎太郎「フランスの対外文化政策 その歴史と現在、理念と現実」(同書、230-243頁)において、すでに相当程度詳述している(この問題系については日仏会館の創設から90周年となる2014年度を目途に、日仏両国間の舞台芸術交流の側面から、あらためて論じたいと考えている)。フランスの国内文化政策に関する論文を2013年度に完成させる見込みである。ベルギーの対外文化政策、カナダの国内・対外文化政策の現状に関する調査がやや遅れてはいるものの、2013年度に取り組みを強化することを予定しており、おおむね順調に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度において、フランスの国内文化政策について補足的な調査を行った上で、論文にまとめる予定である。新しく選出された社会党出身のオランド大統領のもとで、皮肉ながらも政府は緊縮財政を敷き、保守の大統領時代よりも大幅な文化予算の削減が行われた。これまで、どのような政権、いかなる財政状況の下でも、文化は聖域として扱われてきたのであるが、フランスの文化政策は正念場を迎えている。舞台芸術政策に関しては政策理念の変更はなく、予算削減以外には目立った変化に乏しいものの、より効率的な組織運営が求められ、(たとえば対外文化政策の実施機関であるアンスティチュ・フランセの創設に見られるように)政府もそれを後押ししている。 その後、カナダの国内・対外文化政策に関する情報収集をいっそう強化し、論文にまとめる。カナダにおいても、連邦政府レベルでは緊縮財政のために、助成機関(カナダ文化評議会)のプログラムの統廃合がなされ、芸術団体に大きな影響を与えずにはおかなかった。そのためにたとえばケベック州政府は、そうした連邦政府の政策変更の負の影響を緩和するための措置をとることになった。カナダにおいても、ケベック州の分離独立問題に見られるように、ベルギーにも見られたものと同様の言語圏間の対立が見られるのであるが、論文において、連邦政府・州政府の個別政策の特徴を分析し、および両者の協調(あるいはケベック州に見られるように、両者の対立)のあり方を論じたい。 ベルギーの対外文化政策については、ほぼ全面的に共同体に権限が移管されている(フランダース政府はその再構築に取り組んでいるところである)。連邦政府が中心となりつつも、州政府も独自の「外交」政策を展開しているカナダの事例と比較しながら、連邦国家における対外文化政策の展開についての論考としてまとめたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度も、2012年度に引き続いて、 ・網羅的・計画的な資料(図書・報告書)の収集に努める。 ・舞台芸術・文化政策に関わる重要人物に対する聞き取り調査を実施する。 ・ヨーロッパおよび/あるいはカナダへの研究出張を実施し、現地でなければ得ることができない情報の収集に努める。 ・重要人物の訪日の機会などを利用して、大学に招聘し、公開研究会を開催するとともに、情報収集・交換の機会を持つように努める。
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