2012 Fiscal Year Research-status Report
ニコラウス・ペヴスナー研究―その芸術文化史学の形成と構想
Project/Area Number |
24520188
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
近藤 存志 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (00323288)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ニコラウス・ペヴスナー / 芸術文化史学 / 美術史 / デザイン史 / 建築史 / デザイン教育 / 20世紀 |
Research Abstract |
本研究の課題は、20世紀を代表する建築・美術史家ニコラウス・ペヴスナー卿がその多角的研究を通して確立するに至った彼特有の芸術文化史学の基本構造を明らかにしようとするものである。平成24年度は、ペヴスナーの芸術文化史学研究が、文化科学的な関心に基づく建築史研究、美術史研究と並行して、同時代(20世紀)の一般社会における芸術的関心の興隆と芸術趣味の洗練を目指した啓発活動でもあった点に特に注目し、検討した。 1930年代初頭、第二次世界大戦目前の混乱期をドイツで過ごしたペヴスナーは、美術史研究を含む一般社会の様々な芸術的、文化的営みが否応なしに目まぐるしく変わる政治情勢の影響を受ける様を目撃し、かなり早い時期から「歴史家は現代社会と無関係には存在し得ない」という確信を持つようになっていた。ペヴスナー自身の専門分野についてより限定して言えば、芸術文化史学の研究には、現代社会と現代人の精神と日常生活のあり方に対して果たし得る実際的役割が存在するはずである、という確信が彼の中に生まれることになったのである。 平成24年度はこうしたペヴスナーの確信について、1)デザイン教育に芸術文化史研究が果たし得る積極的な役割に関するペヴスナーの考え方、2)一般大衆の芸術的覚醒にグラフィックデザインが持つ教育的効果に関するペヴスナーの見解、の2点を取り上げて考察し、彼が芸術文化史家として上流社会のモノポリーから芸術を解放することに大きな役割を果たしたことを明らかにすることを試みた。 平成24年度の研究成果の発表は、海外で行った2件の学会発表(ICDHS2012-第8回デザイン史デザイン学国際会議およびAIGA2012-デザイン教育者会議)および論文2編(このうち1編は平成24年4月末現在、未刊行であるが掲載は確定済み)の執筆を通して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、20世紀の一般社会における芸術的関心の興隆と芸術趣味の洗練を目的とした啓発活動が、ペヴスナーの芸術文化史学研究の重要な側面であることを確認し、資料の収集と並行して、研究成果の発表を行った。 研究成果の発表は、海外での2件の学会発表を中心に行った。まず、「デザイン教育をめぐるペヴスナーの考え方」について、2012年9月にブラジル、サンパウロで開催されたICDHS2012-第8回デザイン史デザイン学国際会議において“Pevsner on Design Education: Meeting Contemporary Needs through the Teaching of Art History”と題して発表を行った。続いて、一般大衆の芸術的覚醒に関わるペヴスナーの見解に注目した研究発表を、2012年12月に米国、ホノルルで開催されたAIGA2012-デザイン教育者会議において“Pevsner on Graphic Design: Transnationality and the Historiography of Design”と題して行った。ICDHS2012での研究発表の基になった論稿は、Priscila L. Farias, et al. (eds.), Design Frontiers: Territories, Concepts, Technologies (Sao Paulo: Bluecher, 2012) に所収されている。また、AIGA2012での研究発表を基に加筆した論文は、平成25年5月現在、ICOGRADA国際グラフィックデザイン団体協議会の査読付きオンライン・ジャーナル『イリディセント』(Iridescent)の2013年特別号に掲載が決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降は、追加的な資料収集を行いながら、文献資料に基づく研究を継続し、研究成果の発表を学術論文の執筆および国際学会等での研究発表を通して行う計画である。具体的には、「ペヴスナーの芸術文化史研究における〈時代精神〉の意味」および「ペヴスナーの芸術文化史研究における〈芸術地理学〉の手法」に関する研究を進めていく。ペヴスナーの芸術文化史研究における〈時代精神〉の意味については、ヤーコプ・ブルクハルトらからペヴスナーが受け継いだ文化史学的研究の手法を中心に、〈時代精神〉を強調するペヴスナーの芸術文化史研究の成立課程を確認していく。また、ペヴスナーの芸術文化史研究における〈芸術地理学〉の手法については、ペヴスナー最初期の研究成果であるドイツ、ライプツィヒのバロック建築に関する研究から、ペヴスナー自身が「芸術地理学」というタイトルで発表した論稿まで、ペヴスナーが芸術に現れる〈地理的特質〉や〈国民性〉について検討した一連の著作と論文に注目していく。 研究成果の発表については、平成25年度は論文の執筆と並行して、7月にポーランド、クラクフ市で開催される第19回国際美学会議(The 19th International Congress of Aesthetics)、および9月にインド、アフマダーバード市で開かれるデザイン史学会(Design History Society)において研究発表を行う。本研究課題の最終年度となる平成26年度は、当初の研究実施計画にしたがい、研究成果を順次、論文等にまとめ、発表するとともに、ポルトガル、アヴェイロ市で開催が予定されている第9回デザイン史・デザイン学国際会議(The 9th International Conference on Design History and Design Studies)での研究発表を目指している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、当初の研究実施計画にしたがって、海外での資料収集(ベルリン、ライプツィヒ、ケンブリッジ他)を追加的に行うとともに、7月にポーランド、クラクフ市で開催される第19回国際美学会議(The 19th International Congress of Aesthetics)での研究発表(アブストラクト採択済み。発表題目“Distrusting ‘the Taste of the Majority’: Pevsner on Democracy in Architecture”)、および9月にインド、アフマダーバードで開催されるデザイン史学会(Design History Society)での研究発表(アブストラクト採択済み。発表題目“Creativity within a National-Geographical Framework: An Examination of the Proposition Raised in Nikolaus Pevsner’s ‘The Geography of Art’ in the Context of Modern Japanese Design History”)を予定している。このうち後者の学会発表は、当初の研究実施計画では予定していなかったもので、本来平成24年度に予定していたノート型パソコンの購入を一時見送ることで一部研究費(331,955円)の繰り越しを行い、渡航費および学会参加に関わる諸経費を確保している。平成25年度の研究費の使用計画には、こうした海外での学会発表にともなう渡航費、学会発表費、論文および学会発表に関わる英文校閲費、資料収集に関わる渡航費および資料の撮影費、図書費、一次資料複写費等が含まれている。
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Research Products
(6 results)