2013 Fiscal Year Research-status Report
ニコラウス・ペヴスナー研究―その芸術文化史学の形成と構想
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24520188
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
近藤 存志 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (00323288)
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Keywords | ニコラウス・ペヴスナー / 芸術文化史 / デザイン史 / 時代精神 / 国民性 |
Research Abstract |
本研究は、20世紀を代表する建築・美術史家ニコラウス・ペヴスナー卿がその多角的研究を通して確立するに至った彼特有の芸術文化史学の基本構造を明らかにしようとするものである。平成25年度は、1)ペヴスナーの文化科学的関心に基づく建築史研究、美術史研究の形成期について、2)ペヴスナーの芸術文化史研究における〈芸術地理学〉の手法について、そして3)ペヴスナーが自らの生きた時代(20世紀)の一般社会における芸術的関心の興隆と芸術趣味の向上を自身の芸術文化研究の重要な目的として見出すにいたった経緯についてそれぞれ注目し検討、発表を行った。 具体的には、国際学会での発表2件および論文の執筆を進めた。まず、7月にポーランドのクラクフで開催された第19回国際美学会において、ワイマール共和国の崩壊から国家社会主義の台頭、そして全体主義の拡大へと、目まぐるしく変化した政治・社会情勢が、ペヴスナー特有の芸術文化史学に与えた影響について、「芸術文化(建築)と民主主義」に関するペヴスナーの見解に焦点を当てて発表を行った。この発表は、その後加筆して論文"Pevsner on Democracy in Architecture: 1947-1972"(『フェリス女学院大学文学部紀要』49号)にまとめた。ペヴスナーが〈芸術地理学〉と呼んで「国民性と芸術」の関係に注目した研究手法については、9月にインドのアフマダーバードで開催されたデザイン史学会において発表を行った。この発表の原稿に加筆、編集を行った論文が、イギリスの出版社Berghahn Bookから2016年1月刊行される書籍Designing Worlds: National Design Histories in an Age of Globalizationに所収されることになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題との取り組みは、おおむね順調に進んでいると考えている。これまでのところ、〈ペヴスナー特有の芸術文化史学の基本構造〉を、1)青年期の政治的・社会的体験がペヴスナーの芸術文化史観の形成に与えた影響、2)ペヴスナーの芸術文化史観における〈時代精神〉の重要性、3)ペヴスナーの芸術文化史研究における〈国家・国民〉の持つ意味、の3点に集約して、ヨーロッパの思想史および文化史の歴史的変遷の中に位置づけて歴史的、体系的に把握することを試みてきた。 研究成果の発表は、昨年度、今年度併せて計4件の国際学会での研究発表を行い、それらの内容は論文としてもまとめることができた。特に、2012年12月にホノルルで開催されたAIGAデザイン教育者会議(AIGA Design Educators Conference)において行った発表"Pevsner on Graphic Design: Transnationality and the Historiography of Design"は、国際コミュニケーション・デザイン会議(ICOGRADA: International Council of Communication Design)のオンライン査読誌Iridescent: Journal of Design Researchの特集号(volume 2, issue 4)の掲載論文に選ばれ、大幅な加筆を経て2014年2月に発表された。また、2013年9月にデザイン史学会(Design History Society)で行った発表内容も、加筆のうえ、イギリスのBerghahn Book社から2016年1月に刊行される書籍Designing Worlds: National Design Histories in an Age of Globalizationに所収されることが決まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度となる平成26年度は、ペヴスナーの芸術文化史学の創成期にあたる主としてドイツ時代の動向に注目して、資料収集と研究を継続する。それと同時に、研究成果を国内、国外の学会において発表していく。具体的には、目下2件の学会発表を準備している。まず、第二次世界大戦前後の激動期の社会状況と、ワイマール共和制の末期から全体主義の拡大へと至る時代の精神が、芸術文化史家としてのペヴスナーの研究関心に与えた直接・間接的影響について考察する。これは本年7月に開催される意匠学会大会において「ニコラウス・ペヴスナーの〈作者不詳の美学〉―大量生産時代の芸術的課題」と題して発表する予定である。次に、ペヴスナーが亡命生活を送っていたイギリスにおいて1940年代初頭に発表した論稿を取り上げ、「現代と芸術」「社会と芸術」「戦時と芸術」といった、戦時中のイギリスの時代精神と芸術の関係を考察対象とした彼の研究関心について注目する発表を計画している。この発表については、当初予定していた第9回国際デザイン史・デザイン学会議に代わって、本年9月にオックスフォード大学を会場に「戦争と平和のためのデザイン(Design for War and Peace)」をテーマに開催が予定されているイギリスのデザイン史学会(Design History Society)の年次大会において行う予定にしている。発表は既に内定しており、"Quiet, Humane and 'Anonymous': Pevsner's art-historical response to wartime"と題した研究発表の準備を進めている。 また、これらの発表内容は、昨年度・今年度と同様、学会終了後に、加筆のうえ、順次論文としてまとめたい。
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Research Products
(7 results)
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[Book] Designing Worlds: National Design Histories in an Age of Globalization2016
Author(s)
Kjetil Fallan, Grace Lees-Maffei, Sandra Alfody, Dipti Bhagat, Marta Filipová, D. J. Huppatz, Noel Waite, Ariyuki Kondo, Jacques Lange, Jeanne van Eeden, Patricia Lara-Betancourt, Nicolas P. Maffei, Livia Rezende, Stina Teilmann-Lock, et. al.
Total Pages
TBD
Publisher
Berghahn Books