2012 Fiscal Year Research-status Report
仏教類書と説話集におけるその受容に関する基礎的研究
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24520204
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
本井 牧子 筑波大学, 人文社会系, 助教 (00410978)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 仏教類書 / 金蔵論 / 釈氏源流 |
Research Abstract |
本研究は、仏教説話集編纂に際して、漢訳仏典から譬喩因縁譚を抄出・集成した仏教類書が果たした役割を、文献学的な調査研究によって明らかにしようとするものである。本年度はの主な研究実績は以下の通りである。 (1)『金蔵論』の復元研究 中国の北朝末期に編纂された『金蔵論』については、ロシア蔵の敦煌写本コレクションから、その断簡数点をあらたに確認したことが最大の成果である。なかにはこれまで本文が確認されていない巻の断簡と推測されるものも含まれており、全体像復元に大きく資するものである。その成果は「新出の『金蔵論』敦煌本断簡」(国際仏教学大学院大学 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「東アジア仏教写本研究拠点の形成」平成24年度第2回公開研究会、平成24年11月10日、於国際仏教学大学院大学)において口頭発表を行った。また、韓国からは『金蔵論』版本発見の報もあいついでもたらされている。部分的に入手済みの写真をもとに検討を開始し、現物調査に備えている段階である。 (2) 仏教類書の調査 研究開始時点においては、仏教類書の古写本の調査を計画していたが、その後、古写本だけでなく、版本として残る仏教類書にも、説話文学に大きな影響を与えたものがあるとの認識を得るにいたった。そこで本年度は、宋代の『大蔵一覧集』や明代の『釈氏源流』などをも対象として調査を行った。特に、仏伝を枠組みとする『釈氏源流』は、和製の仏伝にも影響を与えたことが推測されたが、調査をすすめるなかで、和製仏伝のひとつの到達点とされる『釈迦の本地』の挿絵に参照されている例なども見いだされた。仏伝経典、類書から文学作品へという流れについては、今後も調査を継続する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の重要課題のひとつである『金蔵論』については、ロシア蔵敦煌写本の発見や韓国版本の出現など、研究計画作成時に考えていた以上の展開があり、復元研究は飛躍的に進展したといってよい。 『金蔵論』以外の仏教類書についても、古写本だけでなく、版本をも対象とするというあらたな展望や、仏伝への視座が開かれた点など、次年度以降の研究の方向に示唆を与える成果が達成されている。 研究成果の公開や共有の面では、24年度は平成24年度説話文学会50周年記念シンポジウムにおけるセッション「説話と資料学、学問注釈―敦煌・南都・神祇―」(平成24年6月24日、於立教大学、コメンテーターとして参加、仏教類書の観点からコメント)、ヘルシンキ大学・タリン大学・筑波大学日本研究学術フォーラム(9月7日、於ヘルシンキ大学、「仏の三十二相とその因縁」と題して口頭発表)、第3回東アジア宗教文献国際研究集会「冥界と唱導」(広島大学敦煌学プロジェクト研究センターほかとの共催)などに主体的に関わることによって、国内外の研究者との研究交流をはかることができた。 以上のように、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)『金蔵論』の復元研究 新出の『金蔵論』ロシア蔵敦煌写本については、散逸巻の内容や構成などについて、さらなる検討を行った上で、復元本文を公刊する予定である。新出の韓国版本については、現物調査のための予備調査として、入手済みの写真をもとにテキストの翻刻を行い、原拠や同話類話などを調査し、基礎資料を完成させる作業を継続する。 (2) 仏教類書の調査 『法苑珠林』『諸経要集』などの諸本調査を行う。あわせて『大蔵一覧集』『釈氏源流』などの版本についても文献学的に検討する。さらに、25年度以降は宗存版や天海版といった日本で刊行された版本についても調査対象としたい。 (3)研究成果の公開と研究交流 24年度は三つの研究集会に主体的に関わることで、国内外における研究交流の輪を広げることができた。これによって培われた問題意識を共有し発展させるべく、25年度以降も同様に研究成果を公開・共有する場を設ける予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
収支状況報告書に次年度使用額として記載した66,147円については、3月に行った研究成果発表のための出張旅費として支出が確定している。
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