2014 Fiscal Year Research-status Report
仏教類書と説話集におけるその受容に関する基礎的研究
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24520204
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
本井 牧子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00410978)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 仏教類書 / 金蔵論 / 釈氏源流 / 譬喩因縁譚 / 仏伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.『金蔵論』の復元研究:本研究の主要課題のひとつは、中国北朝末期に編纂された仏教類書『金蔵論』を、国内外に残る資料により可能な限り復元することである。本年度は、ロシアに所蔵される敦煌写本のうちにあらたに確認された『金蔵論』断簡をもとにした部分的な復元案の公刊をみた(「新出の『金蔵論』敦煌写本」)。これによって、これまで知られていなかった巻の一部があきらかになっただけでなく、これまでの研究において指摘した編者道紀の編纂意識が、あらたに判明した部分においても有効であることが確認された。また、韓国であいついで確認されている新出版本(巻三・四)については、25年度に作成した翻刻・校訂本文をもとに、出典や同文的同話の探索に着手し、本文の検討作業を進めている。 2.仏伝故事を集成した類書にかかわる研究:本研究をすすめるなかで、日本の説話集や唱導における仏教類書の受容をかんがえる上では、譬喩因縁譚のみならず仏伝故事をも視野に入れる必要がうかびあがってきた。本年度は、『釈氏源流』や『釈迦譜』などの仏伝故事を類従した類書と、『釈迦の本地』『釈迦堂縁起』などの和製仏伝との対照研究を進めた。このうち『釈迦の本地』については、その成立背景に法華経とその注釈世界があることを指摘し、類書のみならず、おそらくは類書を経由して経典注釈に引用される譬喩因縁譚や仏伝故事などが利用されている様相をあきらかにした(「『釈迦の本地』とその基盤」)。『釈迦堂縁起』については、『釈氏源流』の挿絵が粉本とされている一方で、テキストのレベルでは参照された可能性が低いこと、むしろ『釈迦譜』や『仏祖統紀』といった別の類書などと通底する部分があることを指摘した(研究発表「清涼寺蔵『釈迦堂縁起』の仏伝」)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『金蔵論』の復元研究については、計画通りに進展しており、順調に成果をあげている。敦煌写本断簡による復元案の公刊がその成果として特筆すべきであるが、新出の韓国版本の本文分析についても、予定通りに進行中である。 また、研究対象を仏伝故事にまで広げたことで、あらたな視界が開けてきた点も、本研究の進捗に功を奏しているとかんがえられる。とくに和製仏伝の成立をかんがえる上で、仏教類書を中心とする周辺資料との対照研究が有効であることは、本研究を進めるなかで確信されつつある。 研究成果発信の点では、本年度もふたつの国際的な学会・シンポジウムにおいて研究成果を発表するなど、積極的な発信を行った。とくに、第三屆佛教文獻與文學國際學術研討會(於中国湖北省黄梅県四祖寺)では、日本・中国・台湾の仏教文献研究者からの有益な指摘を得ることができ、比較研究の重要性も再認識された。また、国内においても、立教大学日本学研究所主催国際シンポジウム「日本と東アジアの<仏伝文学>と天竺世界」において研究発表を行っている。仏伝を共通の関心とする研究者との間で、東アジア文化における仏伝の重要性が再度共有されるとともに、今後の展開への布石となった。 以上のように、本研究は、研究・発信の両面において、ほぼ順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)『金蔵論』の復元研究:今後も継続してあらたな資料の探索をつづけるとともに、新出の韓国版本の本文整備を優先的に進める。最終年度である27年度は、出典や同話などの情報をそなえた校訂本文の完成をめざす。 (2)仏伝故事を集成した類書にかかわる研究:『今昔物語集』などの説話集と仏教類書との関係については、今後も継続して検討を加えるが、昨年度までの研究成果を受けて、本年度は和製の仏伝資料をも研究対象とするべく、方針をシフトすることをかんがえている。とくに、『釈迦の本地』や『釈迦堂縁起』といった仏伝資料と仏教類書との対照研究を主軸とする予定である。 (3)研究成果の公開と研究交流:いくつかの論文の刊行が予定されているが、それとともに、本年度も国内外での研究発表を通じて、国際的・学際的連携の可能性をも模索したい。
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