2012 Fiscal Year Research-status Report
中間小説誌の研究―昭和期メディア編成史の構築に向けて
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24520205
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小嶋 洋輔 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 特別研究員 (50571618)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西田 一豊 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 特別研究員 (00571621)
牧野 悠 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 特別研究員 (50571626)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | メディア研究 / 日本文学 / 近代文学 |
Research Abstract |
平成24年度は昭和20年代の中間小説誌についての調査を進めた。国立国会図書館・日本近代文学館などに赴き、目次・奥付・編集後記を複写、解析を進めた。その成果として、戦後の占領期に相次いで創刊され、消えていった最初期の中間小説誌の典型といえる「小説と讀物」・「苦楽」・「小説界」の総目次をまとめた「「小説と讀物」「苦楽」「小説界」―中間小説総目次」(「千葉大学人文社会科学研究」2013・3)を4名連名で発表した。この総目次の凡例、概要は4名での定期研究会を元に作成された。 また調査の過程で、戦後メディア史の布置を概観する上で、中間小説誌とその隣接領域の雑誌メディアとの境界線上にある雑誌群の調査を進める必要が生じ、同時進行で調査を行った。倶楽部系雑誌との境界にある「読物と講談」や、総合誌との境界にある「モダン日本」「につぽん」などであるが、なかでも「小説朝日」は、中間小説誌として捉え直すべき雑誌であることが判明した。これらの雑誌については引き続き、研究会、公開ワークショップなどを開き、考察を進める予定である(平成24年度は計4回開催した)。 また近畿・中国地方にある文学館調査を行った。吉備路文学館・姫路文学館・神戸文学館・山田風太郎記念館・司馬遼太郎記念館に赴き、学芸員から教示を受けつつ、展示物、所蔵資料等の調査を行った。現地に赴かなければ手に入らない文学館発行の印刷物についても、研究費を用い、収集した。 さらに当研究事業の題を冠するHPを作成、運営している。本HPでは、収集した目次奥付を漸次UPしてゆく予定である。 そして本事業の前身であった第13回松本清張研究奨励事業の研究報告書『松本清張と昭和30年代「中間小説誌」』が、1月31日に北九州市立松本清張記念館より発行された。報告書には4名それぞれが論文を執筆、さらに清張が関わった昭和30年代中間小説誌の分布図を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の目的であった昭和20年代の中間小説誌の調査は、総合誌、倶楽部系雑誌といった他雑誌形態との境界線上にある雑誌の調査まで進めることができたため、当初の研究計画よりも進展しているといえる。特にこれまでの研究で注目されることが無く、資料の保存・公開が完璧にはなされていなかった、昭和20年代に創刊され、消えていった中間小説誌「小説と讀物」「苦楽」「小説界」の目次を公開できたことは大きい。また資料を外に開く場としての本事業HPを作成できた。上記「千葉大学人文社会科学研究」に掲載した中間小説誌の目次など、適宜作成したデータベース等コンテンツを充実させ、外部研究団体・研究者との連携構築に繋げていく。 また、中間小説誌に作品を掲載した作家を多く輩出した、近畿・中国地方の文学館の調査により、中間小説誌に関する資料の所在を確認・発見することができた。実際に資料管理や展示を手がける学芸員と面識を得、資料へのアクセスを可能とする関係を築けたことにより、今後の課題遂行はさらに円滑化するものと考えられる。 ただ、HPの作成に、無料サーバを使用する手段を見つけたため、費用がかからなかったことや、複写費用の少額な図書館などでも資料を発見できたことで、計画よりも60万強予算を使用することができなかった。つまり研究は計画通り以上に進展したが、予算の使用は計画よりも少なく抑えることに成功したということである。 平成24年度計4回開かれた、研究会・ワークショップでは、昭和20年代の中間小説誌の形成過程の検証と位置づけを行った。それに基づき研究に必要な理論の構築を進めることができた。平成25年度は公開ワークショップの開催数を増やし、中間小説誌に関する各自の関心領域に応じた研究を発表、公開してゆく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に得られた結果をもとにして、平成25年度は中間小説誌の黄金期、昭和30年代の調査を継続する。「小説新潮」、「オール読物」、「小説現代」などの代表的な雑誌の調査を継続的に行いつつ、極めて中間小説誌的といえる雑誌であった「小説公園」の調査を中心的に行う。同様に読者像の明確化を行う作業も継続する。 その内実を詳細に記すならば、昭和30年代に中間小説誌で活躍した作家の言説や作品の分析、また「読者の声」欄の調査を行う。収集したデータをHP上でアーカイブ化する作業も継続する。 平成25年度も上記の調査で得られた情報を4名で共有するために定期的に研究会を開催する。さらにその結果をもとに公開のワークショップを開催することも同様である。集めた資料を展開する理論を構築する作業であるとともに、平成26年度に刊行する報告書に向けた作業である。さらに平成25年度は国内学会での発表を予定している(昭和文学会を予定)。学会の現状に鑑み個人発表となる。内容としては、昭和20年代、30年代の中間小説誌という場に特徴的であった作家を取り上げ発表を行うこととなる。もしくは、今年度研究を進展することができた、境界線上にある周縁的な中間小説誌と典型的な中間小説誌の相違をめぐる発表となる。 地方文学館への調査は場所を変えて行う。平成25年度は青森近代文学館の他、太宰治、石坂洋二郎、寺山修司らの文学館がある青森県に赴き、資料収集を行う。小嶋洋輔・高橋孝次が中心となり行う。今年度関係性を構築した文学館への再調査も必要があれば行う。 平成25年度は実際に中間小説誌と関わった編集者・批評家および研究者を招き、シンポジウムを開催する。そこで得られた情報は研究会、ワークショップで詰められる理論構築に役立てるものとなる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は調査費・複写費として計上していた「旅費」・「その他」の使用及びサーバ費・デザイン費といったかたちでHP作成に使用すると考えていた「その他」の使用が予定よりも抑えることができた。本事業では基金化を有効に利用し、その余剰分を物品費に回す予定である。詳細に述べるならば、国立国会図書館、日本近代文学館、神奈川近代文学館などに所蔵されていない巻号などの中間小説誌の現物の購入費に回す予定である。また、研究を進める上で、必要と感じる基礎資料も増加してきたため、そうした資料も購入、漸次データ化してゆく予定である。さらに平成25年度は当該研究事業に関わる個別の研究をそれぞれ深化させる必要がある。そのため個別に必要と感じる資料、備品も増加するはずである。 平成25年度から研究代表者である小嶋洋輔が沖縄県にある公立大学法人名桜大学勤務となったため、これまで千葉大学に築いてきた研究環境をもうひとつ形成する必要がある。スキャンスナップ、プリンタ、裁断機、文房具類、ソフトウェアなどを追加で購入する予定である。また小嶋の沖縄移住に伴い、平成24年度と異なり調査には旅費が必要となる。この増加を先に書いた予算の抑制分で補填する予定である。郵送費に関しても同様である。 さらに平成25年度は公開シンポジウムの開催を予定している。その会場費、謝金、広報に関わる費用の使用も予定している。 以上、平成24年度との変更点を記してきたが、国立国会図書館、日本近代文学館、神奈川近代文学館などでの調査費(交通費・複写費)は平成24年度同様支出する予定である。また、文学館調査に係る旅費は、東北地方への調査、また担当者に小嶋が含まれるということで、平成24年度同様かそれ以上の金額の使用が見込まれる。平成24年度に関係性を構築した文学館への再調査も予定している。
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