2013 Fiscal Year Research-status Report
中間小説誌の研究―昭和期メディア編成史の構築に向けて
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24520205
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Research Institution | Meio University |
Principal Investigator |
小嶋 洋輔 名桜大学, 国際学部, 准教授 (50571618)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西田 一豊 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), その他 (00571621)
高橋 孝次 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), その他 (20571623)
牧野 悠 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), その他 (50571626)
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Keywords | メディア研究 / 日本文学 / 近代文学 / 昭和史 |
Research Abstract |
平成25年度は、国立国会図書館、日本近代文学館、神奈川近代文学館等における 昭和20年代、昭和30年代の中間小説誌及び隣接領域の雑誌メディアとの境界線上にある雑誌群の調査を終了させた。そして当該雑誌における目次・奥付・編集後記などを複写し、解析を行った。その成果として、調査により中間小説誌として捉え直すべきと判明した「小説朝日」の総目次をまとめ、「「小説朝日」-中間小説誌総目次」(「千葉大学人文社会科学研究」2013・9」)を発表した。また、中間小説誌の市場形成に伴い、次第に中間小説誌的性格を取り入れ、独自の地位を獲得するに至った「別册文藝春秋」の昭和20年代の目次を翻刻したのが、「昭和二〇年代の「別册文藝春秋」――中間小説誌総目次 附「文藝春秋別册」総目次」(「千葉大学人文社会科学研究」2014・3)である。これら総目次の概要は4名での定期研究会をもとに作成された。 また平成25年度は、「境界線上にある」雑誌群の挿絵、読者の声欄及び各雑誌の文学賞に関する調査を進めた。本年度は特に、読者の声欄、文学賞に特徴のある「小説新潮」の分析を行った。同時に代表的な作家の小説作品を精読する作業も行った。大佛次郎、今日出海、小山いと子、獅子文六、川崎長太郎、舟橋聖一、水上勉、橘外男である。これらの問題に関しては引き続き、研究会等を開き、考察を進める予定である(平成25年度は計9回開催した)。 また、東北・北陸地方、山梨県にある文学館の調査を行った。特に青森県及び秋田県の文学館への調査は時間をかけて行った。平成24年度の近畿・中国地方の調査に続くものである。青森県立近代文学館、弘前市立郷土文学館などに赴き、学芸員から教示を受けつつ、展示物、所蔵資料の調査を行った。現地に赴かねば入手困難な資料の収集も、研究費を用いて行った。 昨年度に引き続き、当研究事業の題を冠するHPの運営を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の目的であった昭和20年代中間小説誌の分析は、隣接領域の雑誌メディアとの境界線上にある雑誌群まで視野に入れ、目次、挿絵、読者の声欄の調査等にまで及んでおり、順調に推移しているといえる。とくに「小説朝日」を、本事業の述べる中間小説誌的な雑誌として、改めて布置し直し、目次を公開できたことは大きい。 また昭和30年代の中間小説誌の調査も、「オール読物」、「別册文藝春秋」、「小説新潮」「小説公園」といった昭和20年代から中間小説誌を牽引してきた雑誌はもちろん、「小説現代」、「小説中央公論」といった昭和30年代の雰囲気を色濃く持つ雑誌や、境界線上にある雑誌群といえる週刊誌の別冊及び「小説春秋」、「オール小説」まで複写を完了することができた。 平成24年度の近畿・中国地方の文学館調査に続いて、中間小説誌に作品を掲載した作家を顕彰する、東北・北陸地方の文学館の調査を行い、中間小説誌に関する資料の所在を確認、発見することができた。資料管理の現状や展示を実際に手がける学芸員と面識を得、本研究事業の意義を説明した。今後の課題遂行はさらに円滑化するものと考えられる。 また当初の予定通り、研究会、ワークショップを9回開催と昨年度より倍増させることができた。「小説新潮」の読者の声欄、文学賞の意義を問う分析は昨年度の課題である中間小説誌の「受け手」=読者像を考察する手段たり得そうである。中間小説誌に作品を多く掲載した作家の位置を精査する作業とともに今年度も継続する。 ただ、今年度は、協同作業である資料の収集とその分析、公開に時間がかかり、個別の論文執筆や学会発表を予定通りには行えなかった。最終年度の大きな課題である。また、予算消費も抑えられている。当初の予定より、雑誌の現物を古書などで購入することもなく、資料収集にあまり費用がかからなかったことが要因としてある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成26年度は、ここまでの調査、考察で得た理論、ノウハウをもとに大きく分けて3種の作業を行う。第1に、昭和40年代の中間小説誌調査である。昭和40年代は中間小説誌が新たなジャンルとの競合を行う時期である。とくに注目すべき、境界線上にある雑誌として「野性時代」をあげることができるが、こうした雑誌の調査を昭和30年代に継続して行う。また資料の公開・保存の一環として行ってきた「総目次」の発表及び収集したデータをHP上でアーカイブ化する作業も継続して行う。 第2に、報告書の刊行に向けての作業である。報告書では、これまでの研究会、ワークショップで情報を共有、理論を構築してきた成果を論文として掲載する。内容としては、挿絵研究、読者の声欄研究、文学賞研究、中間小説誌を代表する作家の研究が中心となる。これに総目次作成の際に構築してきた、中間小説誌個々の「概要」情報を集約して掲載する。 第3に研究代表者、研究分担者それぞれの論文発表、学会における研究発表を断続的に行う作業である。論文としては現在の段階で、和田芳恵の「日本小説」の「方法」を見る論(研究分担者高橋孝次)、「第三の新人」の筆頭たる安岡章太郎と中間小説誌の関連を見る論(研究代表者小嶋洋輔)、福永武彦における加田伶太郎の問題を考察する論(研究分担者西田一豊)の発表が予定されている。また昭和文学会秋季大会において、剣豪・忍法小説と挿絵に関する研究発表を行うことが決定した(研究分担者牧野悠)。 以上、3種の作業を中心に行う。これと同時に、本事業主催の中間小説誌に関わった編集者を招いてのシンポジウムの開催や、九州・四国地方の文学館調査も行う予定である。そして、今後本事業がどのような可能性を持っているかを自省する作業も本年度に行う必要がある。事業の継続か、発展的テーマを設定しての継続かを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は調査費、複写費として計上していた「旅費」、「その他」の使用を予定よりも抑えることができた。国立国会図書館の利用が予想を超えて膨らんだことも、その使用が抑えられた理由である。また平成25年度は資料を収集しきることに重点を置いたため、中間小説誌の現物の収集に当てる費用が抑えられた。在沖縄の小嶋の旅費もLCCの利用やホテルパックの利用などで予定より抑えることができている。そして、平成25年度に予定していた4名の研究者個々の研究を最終年度に回したことも次年度使用額が生じた大きな要因である。 次に平成25年度に開催予定であった公開シンポジウムの開催が、遅れている。基礎的研究を進めることを優先させたためであるが、これにより、会場費、謝金、広報に関わる費用が執行されなかった。他にも、新たな関係性の構築を優先させたため、平成24年度に調査を行った文学館へ再訪する予定が実行されなかった。 平成26年度では、基礎資料の収集に重点を置く。また、前年度に予定していた研究者個々の研究を最終年度に移したことで、それに係る資料の購入数も増加する。特に、研究分担者である牧野悠が行う昭和文学会秋季大会での研究発表は、中間小説誌の顕著な特徴の一つである「挿絵」の研究ということで、本事業も全面的に支援する予定である。そしてシンポジウムの開催も予定している。本事業で培った人脈を元に、中間小説誌編集者を招き談話を聴く会を開催する。ただ、高齢化など先方の事情もあり、近接分野の研究者を集めてのものに変更する可能性もある。そして最終年度も中間小説に関わる文学館調査を行う。その地でシンポジウムを開催することを含め検討中である。現在四国・九州地方が有力候補である。 そして、本次年度使用額は、本研究事業を進める上で作成の必要を感じた、紙媒体での研究報告書の印刷に費やされることになる。
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