2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520209
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
柏崎 順子 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (20262389)
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Keywords | 出版 / 書誌学 / 江戸 |
Research Abstract |
平成25年度は江戸初期出版界において、仮名草子以外の娯楽に供するような本について、検討を加えた。具体的には古浄瑠璃と俳諧である。古浄瑠璃は仮名草子よりやや早くに出版が開始されているが、両ジャンルはその題材を共有していることが少なくない。そこで、浄瑠璃の上演が始まり、やがて古浄瑠璃の正本が出版されていくその動向について、先行研究を整理した結果、江戸版という現象を有する仮名草子の動向とその画期が一致することが判明した。この研究結果を「初期出版界と古浄瑠璃」(柏崎順子『言語文化』50号)をまとめた。また俳諧と伊勢と出版との関係性を伊勢版と京都版の関係や当時の俳人の動向の検討等を通して、近世出版界における伊勢という場所と俳諧というジャンルの重要性について考察し、「伊勢と俳諧」(柏崎順子『人文自然研究』8号)にまとめた。さらに、こうした研究成果をふまえて、江戸初期出版界に新たに登場してきたジャンルが、従来のテキストが既に存している、いわゆる物の本とは一線を画した娯楽に供するような本であり、それらの諸ジャンル、仮名草子や古浄瑠璃やお伽草子や奈良絵の展開の動向がほぼ一致していることがみえてきた。これは江戸初期に新たなジャンルが生まれる仕組みのようなものが存在する可能性を示唆するもので文学史上重要な問題である。この考察を「書籍の宇宙ー広がりと大系」(シリーズ〈書物の文化史〉第2巻、平凡社)としてまとめた。本研究は文学研究としては出版史の解明することによって、江戸時代の文学が醸成されていく様相を考察するものであるが、こうした研究の視点の持ち方、言いかえればものの見方について、高校生と市民向けに講演依頼があった。それぞれの講演で多数の質問もでて、一定の成果をあげた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究の推進方策として、これまでは江戸版が存在する仮名草子について考察してきたのであるが、仮名草子と同時期に生まれた文学の諸ジャンルの動向を考察することで、出版界全体の動向をとらえるという方向性を計画していたが、予定通り、同時期に生まれた文学ジャンルである古浄瑠璃と俳諧について、それぞれのジャンル内の動向や、それに伴う出版状況について考察した。その結果、仮名草子とそれらのジャンルは、その動向の画期が一致することが判明した。これは当時の出版界がいわゆる物の本と言われる学問や漢籍のようなかたい本とは一線を画す娯楽に供するような本の開発で新たな路線を切り開こうとした際の、既存のテキストを扱う事とは異なる次元での商品開発であるからこそ生じる問題点、あるいは課題をどのように解決してきたかという、その実態の解明にもつながっていく可能性がみえてきた。こうした初期出版界の様相が、後に出版界を物の本と草紙という、組織や流通が異なるカテゴリーを生み出す過程を解明することにもつながっていくのである。そうした意味で本研究は当初計画していた以上に江戸時代の出版界と文学の関係や問題について深い考察に及んでいるということができる。 平成26年度は残りのお伽草子と奈良絵について考察する予定で、平成25年度の研究の成果をより精度を高める必要があるが、発展的課題が生じたという意味において、平成26年度のみならず、本研究全体の問題として当初の計画以上に進展している研究といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の推進方策に示したように、江戸初期の出版と文学の状況について古浄瑠璃と俳諧について考察し、そこから新たな問題を考察する視点も見えてきたので、平成26年度はこれを受けて、当初の予定通り、引き続き江戸初期に新たに登場してきた他のジャンルである奈良絵やお伽草子の、ジャンルそのものの動向や出版の動向について、考察し、論文にまとめる。また以前から調査を進めている挿絵に関しては、特に江戸と京都のいわゆる師宣風の挿絵について、それぞれいつごろから使用され始めるのか、引き続き調査を続ける。師宣風の挿絵については、京都と江戸で挿絵に使用される時期の調査と、ジャンルごとにはどのような傾向が看取されるのか等についての課題を検討していかなければならない。この調査はジャンルを渉っての版本調査が必要であり、またそれぞれのジャンルの研究者との意見交換による、「師宣風挿絵」という概念についての共通認識を構築していく必要性が研究の基盤として必至であることがみえてきた。これは諸ジャンルの版本調査という点において、時間と費用を要する調査であり、その結果みえてきた師宣風挿絵に対する見解を諸ジャンルの研究者とともに検討していくことが必要で、今後、本研究が発展的展開をしたための課題として、新たな研究テーマとしておこなうべき重要な問題といえる。さらに初期出版界の様相を考察する上で重要な伊勢について調査するために、江戸版を出版した中心的書肆である松会家と引き続きコンタクトをとり、伊勢についての調査方法について模索する。
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Research Products
(3 results)