2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24520209
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
柏崎 順子 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (20262389)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 出版史 / 江戸版 / 書誌学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は近世初期の文学の本質について考察する手段として、文学が醸成されていく状況を、文学が社会に普及する媒体となった当時出版された版本の書誌学的調査による出版史の考察によって解明しようとする新たな発想の研究であるが、平成27年度は、その一連の研究を総合的にまとめることを目指し、これまでに発表した論文で報告した調査結果を、その後27年度に実施した海外を含めた補足の調査等により、よりデータを充実させたかたちで総合的にまとめた論文を共著『書籍の宇宙-広がりと体系』(平凡社)において発表した(柏崎順子「江戸版からみる一七世紀日本」)。本論文は近世文学界や美術史等の分野で高く評価された。ただし、本研究は従来にはない新たな発想の研究であったため、資料を発掘、整理する段階から着手した研究であり、なおかつこれまでの文学研究がジャンルごとの枠のなかで行っていた出版史の考察を、その枠を取り払い、ある時期の出版物全体(娯楽に供するような本の全体)を書誌学的に調査することによって得られた知見をもとに考察していく手法であったところから、実際調査を進めた結果あらたな課題が何点か浮上してきたのであるが、そのひとつである、近世初期の挿絵の分類についての、学界における共通認識の確立の必要性を痛感し、その第一歩となる論文を発表した(柏崎順子「江戸初期版本の挿絵ー延宝期以前」)。本論文は各学界で、いわゆる「師宣風」と言われている菱川師宣の画風につながる、師宣以前の挿絵の一群を分析し、ジャンルごとにこの「師宣風」挿絵の認識のずれがあることを指摘し、今後の研究の発展のためには、「師宣風」挿絵に対して共通の認識の確立が必要である旨を説いた論文である。したがって研究途上で浮上してきた新たな課題にも着手した、より研究を発展・進化させていく第一歩を踏み出すことができた年度でもあった。
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Research Products
(2 results)