2012 Fiscal Year Research-status Report
雑誌『白樺』における文学の営為についての総体的な研究
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24520212
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
清水 康次 大阪大学, 文学研究科, 教授 (70137173)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 『白樺』 / 文学と美術 / 『明星』 / 『スバル』 / 『方寸』 / 西洋美術の受容 |
Research Abstract |
本研究は、文学・美術の両分野に跨る雑誌『白樺』(1910-1923年)を取り上げ、文学を孤立した営みとして研究するではなく、同人たちの結びつきの場で生れ、雑誌というメディアから発信されたものであることに着目して、当時の社会や諸文化・諸芸術との関わりにおいて捉えようとするものである。 平成24年度は、第一に、明治30年代・40年代に多く登場している文学と美術の共存する運動(雑誌)に着目し、それぞれの運動の実態を検証するとともに、この時代における文学・美術をめぐる状況の変化を調査し、『白樺』のそれらとの相違性を明らかにしようとした。第二に、『白樺』の創刊期の内容を精査し、執筆した同人たちがどのような影響の下にその記事を書いていったかを調査して、外との繋がりや同人相互の共有と相違を捉えようとした。第一の点については、論文として成果をまとめ、第二の点については、次年度以降に論文としてまとめる予定である。 予算の執行との関わりについては、『白樺』復刻版の購入に大きな部分を割き、その調査に努めた。上述した第一の点については、他の復刻雑誌や研究文献を使って研究を進めたが、そのうちの『方寸』についてはこの予算で購入した。また、当時の文学界・美術界の調査において、手に入りにくい資料を調査するために、東京芸術大学図書館他に出張し、その旅費を申請した。 第二の点については、多くの方向から調査を進めた。その中で、創刊時期の美術紹介が依拠している文献の探索と調査が必要となり、当時同人内外で読まれていた欧米の美術・美術史に関する文献を渉猟した。典拠と目される数点のドイツ語の資料については精読する必要があったので、翻訳を依頼し、その謝金をこの予算で執行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述した第一の点について、研究の成果をまとめ、「『白樺』に先行する芸術運動―『明星』『スバル』『方寸』とその時代状況―」と題して、『大阪大学大学院文学研究科紀要』第53号(平成25・3)に発表することができた。『明星』・『スバル』・『方寸』・『白樺』は、文学と美術とを共存させた当時の雑誌としての共通性を持ちながらも、その雑誌の中での文学と美術の関わりはそれぞれに異なり、その社会に向けての発信の姿勢も相違していることを明らかにした。全体像を一目で見渡せる形で提示したかったために、1本の論文としては長い、紀要の60ページ分、約6万字の論文となった。 第二の点についても、着目していく作品・記事・図版を絞り、それらの持つ意味を考えるための資料を収集し、考察を進めてきており、次年度いくつかの論文にまとめる予定である。 以上のような状況を踏まえて、おおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、引き続き『白樺』創刊期の研究を進め、調査・考察の結果をいくつかの論文にまとめる。また、文学と美術(ないし演劇・音楽)との関わりから見出される問題、文学状況・時代状況の解明、同人たちの共有と相違、メディアとしての雑誌の問題などについて、いくつかポイントに注目して調査・考察していく。 主に次のようなポイントを設けて進める予定である。①「絵画の約束」論争をめぐる問題。②当時の印象派についての世間での理解と同人たちの理解の比較。③「ゴッホ特集号」の成立の経緯とその意義。④「白樺展覧会」の活動と「白樺美術館」の構想について。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品としては、図書がほとんどで、復刻雑誌や参考資料・研究文献の購入に充てる予定である。 手に入りにくい資料については調査出張が必要であり、旅費を申請する予定である。ドイツ語文献・フランス語文献の中で精読を要するものについては、翻訳のための謝金を申請する予定である。
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