2013 Fiscal Year Research-status Report
雑誌『白樺』における文学の営為についての総体的な研究
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24520212
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
清水 康次 大阪大学, 文学研究科, 教授 (70137173)
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Keywords | 『白樺』 / 文学と美術 / 武者小路実篤 / 西洋美術の受容 / 「絵画の約束」論争 |
Research Abstract |
本研究は、文学・美術の両分野に跨る雑誌『白樺』(1910-1923年)を取り上げ、文学を孤立した営みとして研究するではなく、同人たちの結びつきの場で生れ、雑誌というメディアから発信されたものであることに着目して、当時の社会や諸文化・諸芸術との関わりにおいて捉えようとするものである。 平成25年度は、第一に、前年度からの『白樺』の創刊期についての調査を、2つの点に的を絞ってまとめようとした。1つは、武者小路実篤の創刊期の評論活動についてであり、もう1つは、創刊期における西洋美術紹介についてである。第二に、『白樺』における西洋美術紹介の全体を調査し、とりわけ創刊から約4年間の充実した紹介の時期において、同人たちがどのように美術とかかわっていくのかを明らかにしようとした。第三に、『白樺』第2巻第9号(1911(明治44)年9月)から第3巻第2号(1912(明治45)年2月)まで、山脇信徳・武者小路実篤と木下杢太郎との間で争われた「絵画の約束」論争について、その論点と背景を洗い出し、論争の意味を明らかにしようとした。3つ(あるいは4つ)の問題に同時に取り組んだのは、それぞれが深く関係し合う問題であり、それぞれの問題をまとめきるためには、全体的な見通しが必要であったからである。そのことで、今年度の研究は、調査と考察にほとんどの時間を費やし、見通しは立ったものの、成果をまとめきるには至らなかった。 調査は、おおむね復刻雑誌・個人全集・研究文献を使って進めたが、そのうちの『新思潮』『木下杢太郎全集』などについてはこの予算で購入した。また、創刊時期の美術紹介が依拠している文献のうち、ドイツ語の資料については精読する必要があったので、翻訳を依頼し、その謝金を執行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述したように、いくつもの問題について並行して追求しなければならなかったために、成果を論文の形でまとめきることができなかった。具体的には、創刊期の西洋美術紹介の混在性について明らかにしようとしたが、それをまとめるためには、『白樺』における西洋美術紹介の全体像と推移を捉えておく必要が生じた。また、創刊期の西洋美術紹介における同人たちの立場を明らかにするためには、次に起こる「絵画の約束」論争について検証しておかなければならないとわかった。そのように、1つの問題が他の問題と分かちがたく関連していたからである。しかし、この1年間に、ほぼそれぞれの問題についての見通しは立ち、論文としてのまとめ方も決めることができた。次年度は、まず、創刊期における武者小路実篤の評論活動について論文にまとめる。次に、『白樺』における美術紹介の全体の推移と特色についてまとめ、また、「絵画の約束」論争についてまとめる予定である。 以上のように、内実としては停滞しているわけではなく着実に進展しているが、成果としての結実をまだ見ていない点において、やや遅れていると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、蓄積してきた調査・考察をいくつかの論文にする予定である。3年間の研究期間の最後の年になるので、いままで取り組んだ問題について論文としてまとめる作業に全力を注ぐ。 次のような3つの論文を予定している。①武者小路実篤「「それから」に就て」論、②『白樺』における西洋美術紹介の推移と特色、③「絵画の約束」論争。いずれも、かなりの分量の論文になるはずである。それらをまとめ終われば、次の問題として、④創刊期の美術紹介の混在性、⑤ロダン号の持つ意義、⑥ゴッホ紹介の特色、などの個別的な問題に取り組んでいきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、購入を希望していたが購入しきれなかった図書等があり、少々残額が生じた。 次年度の予算は、物品費はほとんどが図書として、復刻雑誌や参考資料・研究文献の購入に充てる予定である。また、研究の進行状況に応じて、調査出張の旅費を申請し、外国語文献の中で精読を必要とするものについての翻訳のための謝金を申請する予定である。今年度の残額は、次年度の予算とあわせてそれらに充てる。
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