2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520221
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
高橋 秀晴 秋田県立大学, 公私立大学の部局等, 教授 (40310982)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 金子洋文 / 小牧近江 / 今野賢三 / 滝田樗陰 / 種蒔く人 / プロレタリア文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書の「研究実施計画」に即して、金子洋文の自筆原稿の調査に着手した。主として初期の作品を対象としたが、原稿段階から初出に至るまで極端な改変は確認されなかった。その理由としては、洋文があらかじめ構想をきちんと立てた上で原稿に向かったという可能性と、綿密な推敲を省いてできる限り多くの作品を発表することを優先した可能性とが考えられる。 次に、大正末の洋文の文学活動を検証した結果、プロレタリア文学系の「洗濯屋と詩人」(『解放』1922年4月号)や「地獄」(『解放』1923年3月号)と、既成文学系の「犬」(『中央公論』1922年5月号)や「女」(『文学世界』1923年5月号)とを交互に発表していることが判明した。さらに、質的には同レベルであるにもかかわらず、「洗濯屋と詩人」は中村吉蔵によって「時代精神の一角を捉へやうとした作者の健気な努力を無視する事は出来ない。」(「四月の創作」、『読売新聞』1922年4月6日)と認められ、「地獄」は川端康成によって「私の知る限りでは所謂プロレタリア文芸が提唱されて以来の其の要求をも満たすべき最初の傑作」(「三月文壇創作評」、『時事新報』1923年3月16日)と絶賛されるなど、圧倒的にプロ文系作品の評判がよいことを明らかにした。それらの事実から、〈文学青年〉と〈政治青年〉の間をたゆたっていた洋文が、同時代評に強く後押しされてプロレタリア文学作家となっていったという結論を導いた。 以上のことを、「望嶽楼の夢―滝田樗陰と近代文学者―」(『秋田魁新報』土曜文化欄連載、2014年4月5日~)、「金子洋文と同時代評」(『秋田風土文学』第15号、2015年3月31日)、口頭発表「滝田樗陰と秋田」(秋田風土文学会、2015年2月7日)等において公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「研究の目的」に挙げた金子洋文自筆原稿の調査に着手し、その傾向について中間的結論を得た。 また、作家としての出発期における創作・評論活動と同時代評との関わりについて調査し、洋文が自身の進む文学的方向性を定めてゆく経緯を明らかにした。 それらのことを、「望嶽楼の夢―滝田樗陰と近代文学者―」(『秋田魁新報』土曜文化欄連載、2014年4月5日~)、「金子洋文と同時代評」(『秋田風土文学』第15号、2015年3月31日)において活字化し、秋田風土文学会研究発表会(2015年2月7日)において「滝田樗陰と秋田」というタイトルで発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
金子洋文の中後期の自筆原稿の調査・分析を続行する。同時に、交付申請書の「研究実施計画」に基づき、土崎図書館所蔵資料の「草案・断片」「ノート」「スクラップ」の分析に着手し、洋文の構想・取材の方法について考察する。 なお、上記の研究を通じて得られた成果を、学会発表、論文発表、講演等において随時公表する予定である。
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